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今昔物語集

巻15第48話 近江守彦真妻伴氏往生語 第四十八

今昔、近江守彦真1)と云ふ人有けり。其の妻、伴の氏、若より道心有て、弥陀仏を念じ奉けり。

而る間、此の女、彦真と夫妻と成て、其の契り深しと云へども、同じ床に臥さずして、触ばひ近付く事無し。常に身を浄くして、念仏を唱ふ。

而る間、胎蔵界の曼荼羅の御前に居て、夫彦真を呼て、語て云く、「我れ、年来、汝と夫妻の契り有りと云へども、同じ床に臥さずして、触ばひ近付く事無し。然れども、定めて其の罪無きに非じ。然れば、我れ、汝と同所に居らじ。一家を我れに与へよ」と、「別に居て、其の罪を遁れむ」と。然れば、彦真、妻の云ふに随て其の事を受つ。

妻、亦云く、「我れ、年来、弥陀の念仏を唱へて、懃ろに極楽に往生せむと為るに、聊の滞り有り。此れを量らふに、先年に人有て、我れに鮒を数(あまた)得しめたりき。其の中に生たる鮒二つ有りき。我れ、其れを哀れむで、取て井の中に入れてき。而るに、彼の鮒、定めて、狭き所に久く有て、『広き所に有らむ』と悲らむ。若し、其の罪の故に滞るか」と。彦真、此れを聞て、忽に井に人を下して、底を捜り求めしめて、二の鮒を取て、広き江に持行て、放たしめつ。

其の後、女、命終る時に臨みて、蓮の香2)家内に満て、紫雲聳(そび)き下て、簾の内に入たりけり。遂に、女、身に苦しぶ所無くして、西に向て念仏を唱へて失にけり。此れを見聞く人、皆貴ばずと云ふ事無し。

此れを思ふに、然許の罪に依て、往生の滞りと成る。況や、心に任せて罪を造れらむ人は、往生極て有難き事なれども、只、最後に実の心を至して念仏を唱ふべき也となむ、語り伝へたるとや。

1)
伴彦真
2)
「香」、底本「首」。諸本により訂正。
text/k_konjaku/k_konjaku15-48.txt · 最終更新: 2015/11/08 23:21 by Satoshi Nakagawa
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