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今昔物語集

巻15第21話 大日寺僧広道往生語 第廿一

今昔、大日寺と云ふ寺に、広道と云ふ僧有けり。俗姓は橘の氏。数十年の間、「極楽に往生せむ」と願ひて、世事を知らざりけり。

亦、其の寺の辺に老たる嫗有けり。極めて貧くして、二人の男子あり。共に出家して僧と成れり。比叡の山の僧也。兄をば禅静と云ふ。弟をば延睿と云ふ。而るに、其の1)寡にして、身に重き病を受たり。日来悩み煩ひて、遂に死ぬ。其の後、此の二人の子の僧、歎き悲むで、昼は法花経を読誦し、夜は弥陀の念仏を唱へて、心を発して母の往生極楽の事を祈けり。

而る間に、彼の広道が夢に、極楽寺・貞観寺、二の寺の間に音楽の音聞ゆ。広道、此れを聞て驚て、「何ぞの音楽ならむ」と思て、行て見れば、其の所に微妙の宝を以て荘(かざ)れる三の車有り。多の僧、皆香炉を捧て、車を囲遶して、此の死たる老母の家に至て、嫗を呼び出して、天衣宝冠を着せて、此の車に乗せて返り行なむと為る時に、二人の子の僧に告て宣はく、「汝等、母の為に法花経を誦し、弥陀の念仏を唱へて、懃に母の往生極楽を祈るが故に、我等来て迎ふる也」と。亦、広道に告て云く、「汝ぢ、速に極楽に往生すべき相有り」と云て、車を囲遶して、西を指て去ぬと見て、夢覚ぬ。

其の後、広道、彼の死人の家に行て、二人の僧を呼び出して、此の夢を語る。僧共、此れを聞て、涙を流して、悲び貴ぶ事限無し。

其の後、広道、幾の程も経ずして失けり。其の日、音楽の音、空らに満たりけり。此れを聞く道俗男女、「此の広道が往生の相也」と知て、耳を傾けて、心を発す人多かりけりと語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「其ノノ下母字ヲ脱セルカ」
text/k_konjaku/k_konjaku15-21.txt · 最終更新: 2015/10/17 00:15 by Satoshi Nakagawa
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