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今昔物語集

巻15第19話 陸奥国小松寺僧玄海往生語 第十九

今昔、陸奥、新田郡に小松寺と云ふ寺有り。其の寺に玄海と云ふ僧住けり。初は妻子を帯して世間を過しけり。後には妻子を離れ、世間を棄て、此の寺に住して、心を仏の道に懸て、昼は法花経一部を読奉り、夜は大仏頂真言七返を誦しけり。此れを常の勤めとして、闕く事無し。

而る間、玄海、夢に、我が身の左右の脇に、忽に羽生ぬ。西に向て飛び行く。千万の国を過て、飛び行て、微妙なる世界に至ぬ。皆七宝の地也。其の所にして、我が身を見れば、大仏頂真言を以て左羽とし、法花経の第八巻を以て右羽としたり。此の世界の宝樹、様々の楼閣・宮殿を廻り見るに、一人の聖人出来れり。我れに告て宣はく、「汝が来れる此の所をば知れりや否や」と。玄海、「知らず」と答ふ。聖人の宣はく、「此の所は、此れ極楽世界の一の辺也。汝ぢ、速に本国に返て、今三日1)を過て、汝を迎ふべき也」と。玄海、此れを聞て、前の如く飛び返ぬと見て、夢覚ぬ。

其の間、弟子・童子共、「既に我が師は死たり」と云て、泣き悲び合へり。而るに、玄海、活(いきかへり)て、弟子共に此の事を語る。弟子共、此れを聞き悲び貴ぶ事限無し。

其の後、玄海、弥よ心を発して、法花経を読み、大仏頂真言を誦して、遂に三年に至て失にけり。

此れを見聞く人、「此く其の教へたる期違はずして死ぬれば、定めて極楽浄土に疑ひ無く至りにけむ」とぞ、云て貴びけるとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「三日一本三年に作る」
text/k_konjaku/k_konjaku15-19.txt · 最終更新: 2015/10/16 17:54 by Satoshi Nakagawa
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