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今昔物語集

巻15第16話 比叡山千観内供往生語 第十六

今昔、比叡の山の□□□□に千観内供と云ふ人有けり。俗姓は橘の氏人也。其の母、初に子無くして、窃に心を至して、観音に子を儲けむ事を祈申しけるに、母の夢に、一茎の蓮花を得たりと見て後、幾の程を経ずして懐妊して、千観を産たりける也。

其の後、其の児、漸く長大して、比叡の山に登て、出家して、名を千観と云ふ。其の後、□□と云ふ人を師として、顕密の法文を兼学ぶに、心深く、智り広くして、二道に於て悟り得ずと云ふ事無し。

食物の時、大小便利の時を除ては、一生の間、法文に向はざる時は無し。亦、阿弥陀の和讃を造る事、廿余行也。京・田舎の老少貴賤の僧、此の讃を見て、興じ翫て、常に誦する間に、皆極楽浄土の結縁と成ぬ。而るに、千観、本より心に慈悲深くして、人を導き畜生を哀ぶ事限無し。

而る間、千観、八事の起請を造る。此れ、僧の行として、翔(ふるま)ふべき事を誡る故也。亦、十の願を発して、衆生を利益せむが故也。千観、夢に止事無き人来て云く、「汝ぢ、道心極て深し。豈に極楽の蓮花を隔てむや。善根量無し。定めて弥勒の下生の暁を期せむ」と告ぐと見て、夢覚て後、泣々く悲び貴びけり。

亦、権中納言藤原の敦忠の卿と云ふ人の、第一の女子有けり。年来、千観に師檀の契を成して、深く貴び敬ふ事限無し。而るに、千観に語て云く、「師、命終て後、必ず生れ給へらむ所を示し給へ」と。千観、此れを聞て後、年月を経て、遂に命終らむと為る時に臨て、手に造る所の願文を捲(にぎ)り、口に弥陀の念仏を唱へて失にけり。

其の後、彼の女の夢に、千観、蓮花の船に乗て、昔し造れりし所の弥陀の和讃を誦して、西に向て行くと見けり。夢覚て後、女、「昔し、『生れむ所を示せ』と契りしを告たる也」と思て、涙を流して、喜び貴びけりとなむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku15-16.txt · 最終更新: 2015/10/13 11:45 by Satoshi Nakagawa
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