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今昔物語集

巻15第12話 比叡山横川僧境妙往生語 第十二

今昔、比叡の山の横川に、境妙と云ふ僧有けり。俗姓は□□の氏、近江の国の人也。幼くして山に登て出家して、師に随て法花経一部を受け学て後、日夜に読誦する程に、暗(そら)に思えにけり。然れば、年来、他念無く法花経を持(たもち)奉て、既に二万部を読誦したり。

而る間、行願寺と云ふ寺に行居て、静にして、法花経を書き奉て、卅座の講を儲て、此れを講ぜしむ。其の講の結願の日は、十種の供具を儲て、法の如く行ひけり。

而る間、兼て命終らむ時を知て、比叡の山に登て、所々の堂舎を廻り礼し、古き同法に値て、不審(いぶかし)き事共を云ひ置て云く、「此れ最後の対面也」と。此れを聞く人、怪び思ふ。境妙、本の行願寺に返り行て後、幾の程も経ずして、身に病を受て、言を吐て云く、「境妙が最後の病、此れ也。此の度、必ず死なむとす」と云て、沐浴して浄き衣を着て、堂に入て、阿弥陀仏の御手に五色の糸を付て、其れを引へて、西に向て念仏を唱ふ。亦、数の僧を請て1)、法花経を読誦せしめ、懺法を行はしめ、念仏三昧を修せしむ。而る間、境妙、貴くして失ぬ。

其の後、或る聖人の夢に、境妙聖人、金の車に乗り、手に経を捧て、数の天童に囲遶せられて、遥に行く。其の時に、人有て云く、「今、境妙聖人の極楽に往生する儀式、不可思議也」と云ふと見て、夢覚にけり。

此の事を人に語ければ、此れを聞く人、「境妙聖人、兼て死期を知て人に告て、終り貴くて失ぬるに、夢の告げ疑ひ無ければ、必ず往生せる人」とぞ、貴びけるとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「請テハ請ジテノ誤カ」
text/k_konjaku/k_konjaku15-12.txt · 最終更新: 2015/10/04 17:25 by Satoshi Nakagawa
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