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今昔物語集

巻15第11話 比叡山西塔僧仁慶往生語 第十一

今昔、比叡の山の西塔に、仁慶と言ふ僧有けり。俗姓は□□の氏、越前の国の人也。幼にして山に登て出家して、仁鏡阿闍梨と云ふ人を師として、顕密の法文を受け学て、師に仕へて、年来山に有ける間に、暇の隙、法花経を読誦し、真言の行法を修して、漸く長大に成る程に、本山を離れて、京に出て住む間に、人有て、請て経を読ましめて貴めば、其に付て京に有るに、或る時には、仏道を修行せむが為に、京を出て、所々の霊験の所に流浪す。或る時には、国の司に付て、遠き国に行てぞ有ける。此如くして世を渡ると云へども、必ず日毎に法花経一部を読誦して闕かざりけり。自の功徳としけり。

而る間、遂に京に留て、大宮と□□とにぞ住て有ける。漸く年積て老に臨めれば、世の中を哀れに無端(あぢきな)く思て、殊に道心□1)けむ、聊かに房の具などの有けるを投げ棄て、両界の曼荼羅を書奉り、阿弥陀仏の像を造り奉り、法花経を写し奉て、四恩法界の為に供養しつ。

其の後、幾の程を経ずして、仁慶、身に病を受て、日来悩み煩ふ間、自ら法花経を誦して断つ事無し。亦、他の僧を請じて、法花経を読誦せしめて、心を至して此れを聞く。此如くして日来有る間に、遂に失ぬれば、葬してけり。

其の後、隣なる人の夢に、大宮の大路に、五色の雲、空より下る。微妙の音楽の音有り。其の時に、仁慶、頭を剃り、法服を着して、香炉を取て、西に向て立てり。空の中より蓮花台下る。仁慶、其れに乗て、空に昇て、遥に西を指て去る。而る間、人有て云く、「此れは、仁慶持経者の極楽に往生する也」と云ふと見て、仁慶が房に此の事を告けり。房の弟子、此れを聞て、貴び悲びけり。亦、七々日の法事畢て、其の夜、或る人の夢に、前の夢の如く、只同じ様に見て告けり。

此れを聞く人、皆、「仁慶は必ず極楽に往生せる人也」と云てぞ貴びけるとなむ、語り伝へたるとや。

1)
底本頭注「道心ノ下発字アルベシ」
text/k_konjaku/k_konjaku15-11.txt · 最終更新: 2015/10/04 17:08 by Satoshi Nakagawa
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