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今昔物語集

巻15第10話 比叡山僧明清往生語 第十

今昔、比叡の山のに1)明清2)と云ふ僧有けり。俗姓、藤原の氏。幼くして山に登て、出家して□□□□と云ふ人を師として、真言の密教を受け学て、年来山に住して、行法を修して怠る事無かりけり。亦、道心有て、日夜に弥陀の念仏を唱へて、極楽に往生せむ事を懃に願ひけり。

此如く勤め行ふ間、年漸く積て、明清、老に臨て、身に聊の病を受たり。其の時に、明清、弟子静真と云ふ僧を呼び寄せて、告て云く、「地獄の火、遠くより現ぜり。我れ、年来、見つらむ様に、偏に念仏を唱て極楽に生れむ事を願ひつるに、本意無く今地獄の火を見る。然りと云へども、尚念仏を唱へて、弥陀如来の助を蒙らむより外は、誰か此れを救はむ。然れども3)、我れも人も、共に心を至して念仏三昧を修すべき也」と云て、忽に僧共を請じて、明清が枕上にして、念仏を唱へしむ。

其の後、暫く有て、亦明清、静真を呼び寄せて、告て云く、「我れ前に告つる地獄の火、眼の前に現ぜりつるに、今、其の火、既に滅して、即ち西方より月の光の様なる光り来り照す。此れを思ふに、実に念仏三昧を修せるに依て、弥陀如来の我れを助けて迎へ給ふべき相也けり」と云て、泣々く弥よ念仏を唱ふ。静真、此れを聞て、喜び貴びて、請じつる所の僧共に此の事を告て、諸共に念仏を唱ふ。

其の後、日を隔て、明清、命終らむと為る時を知て、沐浴し清浄にして、西に向て端座して、掌を合せて失にけり。弟子静真、此れを見て、師の言に違はず往生する事を喜び貴びて、弥よ念仏を唱へけり。山の内の人、皆此れを聞て、貴ばずと云ふ事無し。

此れを思ふに、往生は只念仏に依るべき事也となむ、語り伝へたるとや。

1)
丹鶴叢書本、「の」と「に」の間に欠字
2)
底本頭注「清ハ請ノ誤カ」
3)
底本頭注「然レドモハ然レバノ誤カ」
text/k_konjaku/k_konjaku15-10.txt · 最終更新: 2015/10/02 21:55 by Satoshi Nakagawa
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