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今昔物語集

巻14第34話 壱演僧正誦金剛般若施霊験語 第卅四

今昔、山崎に相応寺と云ふ寺有り。其の寺に、壱演と云ふ僧住けり。此れ本は俗也。内舎人大中臣の正棟とぞ云ける。奈良の西の京にぞ住ける。道心発して出家して後、池辺の宮と申ける人の弟子として唐に亘る。真言を受習て、法を修行する事愚かならず、帰朝して後、彼の相応寺に住して、真言の行法を修し、亦、日夜に金剛般若経を読誦す。而る間、貴き思え聞え高く成ぬる。

其の時に、水尾天皇の御代に、隼と云ふ鳥、仁寿殿の庇の上、長押に巣を咋(く)へり。天皇、此れを驚き怪び給て、止事無き陰陽師共を召て、此の事の吉凶を問はるるに、占申して云く、「天皇の重き御慎也」と。天皇、恐ぢ怖れ給て、方々の御祈共有り。然れども、未だ其の験無き間、弥よ慎み怖れさせ給ふ事限無し。

而る間、或人、奏して云く、「山崎と云ふ所に、相応寺と云ふ寺有り。其の寺に、年来住して日夜に金剛般若経を読誦する聖人有けり。名をば壱演と云ふ。現世の名利を離れて、後世の菩提を願ふ者也。彼れを召て祈らしめば、必ず霊験掲焉ならむ」と。天皇、然れば召すべき由を仰下されて、使を遣すに、即ち召の使に具して参れり。

然れば、仁寿殿に召し上て、彼の隼の巣を咋たる間にて、金剛般若経を転読せしむ。四五巻許を誦する程に、忽に、隼、四五十許外より飛び来て、隼毎に巣を咋て飛び去ぬ。其の時に、天皇、壱演を礼して、貴び給ふ事限無し。賞を給はむと為るに、承引せずして返ぬ。

其の後、貴き思え高く成て、帰依せらるる程に、天皇の母方の祖父、白川の太政大臣1)と申す人、老体の上に重き病を受て日来を経るに、方々の御祈共有り。就中貴き思え有る止事無き僧共を召て、殊に祈らしめ給ふに、露の験無し。

而るに、天皇の前の隼の事を思食て壱演を召に遣す。壱演、召に随て参て、大臣の御枕上にして、金剛般若経を読誦する数巻に及ばざる程に、大臣、御病は𡀍2)給ぬ。其の時に、天皇、弥よ壱演を貴び給ふ事限無し。感に堪へずして、遂に権僧正に成されぬ。其の後は、世挙て此の人を帰依しけり。

此れを思ふに、金剛般若経は罪業を滅し給ふ。然れば、罪を滅して徳を得る事此如し。薬師寺の東に唐院と云ふ所有り。此の僧正の栖(すみか)となむ語り伝へたるとや。

1)
藤原良房
2)
口へんに愈
text/k_konjaku/k_konjaku14-34.txt · 最終更新: 2015/09/18 14:04 by Satoshi Nakagawa
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