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text:k_konjaku:k_konjaku14-33

今昔物語集

巻14第33話 僧長義依金剛般若験開盲語 第卅三

今昔、奈良の右京の薬師寺に、一人の僧有けり。名をば長義と云ふ。

年来、寺に住して有る間に、宝亀三年と云ふ年、俄に長義が両目盲て、物を見る事を得ず。然れば、長義、日夜に此れを歎き悲むで、医師を請じて医(くすり)を以て療治すと云へども、其の験無くして、五月を経ぬ。

其の時に、長義、心に思はく、「我れ、前世の悪因に依て盲と成れり。然れば、如かじ、般若経を転読せしめて、悪業を滅せむ」と思て、数(あまた)の僧を請じて、三日三夜の間、金剛般若経を転読せしめて、心を至(いた)して、罪業を懺悔す。

而る間、第三日に及て、両目忽に明に成て、物を見る事、本の如し。其の時に、長義、泣々く喜び貴て、般若経の験力の新なる事を深く信じて、弥よ心を発して読誦して恭敬し奉けり。寺の僧共、此れを聞て貴ぶ事限無し。

然れば、前世の罪業を滅する事は、金剛般若経に過たるは無し。罪業の滅すれば、此如く病の癒る1)事疑ひ無し。心有らむ人は、此れを聞て、専に此の経を受持読誦し奉るべしとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本「癒」空白。脱字と見て補う。
text/k_konjaku/k_konjaku14-33.txt · 最終更新: 2015/09/17 21:56 by Satoshi Nakagawa