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今昔物語集

巻14第25話 山城国神奈比寺聖人誦法花知前世報語 第廿五

今昔、山城の国綴喜の郡に飯の岳と云ふ所有り。其の戌亥の方の山の上に神奈比寺と云ふ山寺有り。其の寺に一の僧住す。幼より法花経を受習ひ、日夜に読誦す。亦、真言を持(たもち)て年来行ふ間、随分に其の験有り。然れば、徳を開く事、転(うたた)有けり。

而る間、此の僧、常に、「此の寺を去て、大寺に行なむ」と思ふ心有けり。然れども、忽に行く事も無くて、思乍ら過る間、尚吉々く思ひ定めてければ、既に出でて去なむと為るに、其の夜の夢に、貴き老僧来て宣はく、「我れ、汝が宿世の報を説て聞かしめむと思ふ也。汝ぢ、前の世々に蚯蚓の身を受て、常に此の寺の前の庭の土の中に有りき。其の時に、此の寺に法花の持者有て、法花経を読誦せしを、蚯蚓、常に聞(きき)き。其の善根に依て、蚯蚓の身を棄てて、今人と生れて、僧と成て、法花経を読誦し仏道を修行す。此れを以て知るべし。汝は此の寺に縁有る身也。然れば、専に他の所へ行くべからず。我れは此れ、此の寺の薬師如来也」と宣ふと見て、夢覚ぬ。

其の後、始めて前世の報を知り、此の寺に縁有る事を知て、他の所へ行かむ思ひを止めつ。

其の後、永く此の寺に住して、懇に法花経を読誦して思はく、「我れ前生に蚯蚓とて、此の寺の庭の土の中に有て、法花を聞くに依て、虫の身を棄てて、人と生れて、僧と成て法花経を読誦す。願くは、今生に法花を誦する力に依て、人界を棄てて、浄土に生れて菩提を証せむ」と誓ひて行ひけりとなむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku14-25.txt · 最終更新: 2015/09/10 01:02 by Satoshi Nakagawa
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