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今昔物語集

巻14第24話 比叡山東塔僧朝禅誦法花経知前世語 第廿四

今昔、比叡の山の東塔に朝禅と云ふ人有けり。幼1)にして、「山に登て、出家して仏法の道を習はむ」と思ふに、天性愚痴にして習ひ得る事無かりければ、師の云く、「汝ぢ心鈍くして学問には能はじ。只、法花経を読誦して、偏に行ひを為よ」と教へければ、学問をば止めて、師の教へに随て、法花経を受習て、日夜に読誦して、懃に仏道を行ふ。昼は房にして法花経を読誦し、夜は中堂に籠て行ひけり。遂に法花経一部を暗(そら)に浮べ思えぬ。

而る間、□□と云ふ止事無き相人、中堂に参て礼堂に居たるに、山の諸の僧来集て、「我れを相せよ」と各語らへば、云ふに随て悉く善悪を相する間、朝禅を見て相して云く、「我御(わご)は前生に白き馬の身を受て御しき。而れば、前生の気分に依て、身の色は白く御する也。亦、音荒くして馬の走る音に似たり。皆前世の習ひ也」と。

朝禅、此れを聞て、相人返て後に諸の僧共に向て云く、「此の相人、口に任て云ふ事也。形の有様を見、音を聞て、命の長短、身の貧富をこそ相すとも、何でか前世の事をば知らむ。仏こそ前生の事をば知給はめ」と云て、信ぜずして中堂に籠て、心を至(いたし)て、「前世の報を知らしめ給へ」と申す。

夢に、老僧来て、朝禅に告て宣はく、「相人の云ふ所、実也。更に虚言に非ず。善悪の報、皆影の身に副へるが如し。汝ぢ、前生に白き馬の身を受たりき。法花持者有て、其の馬に乗て一時道を行たりし力に依て、馬の身を転じて、今人に生て、僧と成て法花経を読誦し仏法に値遇せり。何に況や、自ら持(たも)ち、人を勧めて持たしむ功徳を思遣るべし。汝ぢ、弥よ心を至して懈怠する事無かれ」と教給ふと見て、夢覚ぬ。

其の後は、宿業を知て、相人の言を信ぜざる事を悔けり。実の相人は前世の報をも皆相する也けり。朝禅、此れを深く信じて、其の後は心を至して、此く仏法に値奉れる事を喜て、弥よ修行しけりとなむ語り伝へたるとや。

1)
底本「幻」。誤植とみて訂正。
text/k_konjaku/k_konjaku14-24.txt · 最終更新: 2015/09/09 22:44 by Satoshi Nakagawa
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