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今昔物語集

巻14第23話 近江国僧頼真誦法花知前生語 第廿三

今昔、近江国に頼真と云ふ僧有けり。始めて九歳なりける時より、其の国に金勝と云ふ寺に住して、僧の経を読誦するを聞取て、心に持(たもち)て忘れざりけり。既に法花経一部を聞取てければ、暗(そら)に此れを誦す。

年来、其の寺に住む程に、漸く年老ぬ。日毎に法花経三部を読誦して、更に怠たる事無し。亦、法文を習て、其の義理を悟て、智有る人と成れり。但し、此の人、物を云ふ時、例の人に似ず口を喎(ゆが)め面を動かしてぞ云ひける。其の体、牛に似たり。

然れば、頼真、此の事を恥て、曙け暮れ歎く。「我れ、前生の悪業に依て、此の報を感ぜり。今生に此れを懺悔せずば、亦後世を恐るべし」と思て、比叡の山の根本中堂に参て、七日七夜籠て、「前生後世の果報を知らしめ給へ」と祈念し申す。

第六日の夜、夢に貴き僧来て、告て云く、「僧□□、鼻闕たる牛なりしに、近江の国依智の郡の官首の家に有りし。而るに、官首、法花経八部を其の牛に負せて、供養せむが為に山寺に運びき。経を負奉りし故に、今牛の身を棄てて、人と生れて、僧と成て法花経を読誦し、法文を悟る。亦、今生に法花経を誦せる功徳に依て、遂に生死を離れ菩提に至るべし。但し、宿業尚し残て、口は牛に似る也」と宣ふと見て、夢覚ぬ。

其の後、明に前生後世の事を知て、本の寺に返て、弥よ悪道を恐れて仏道を求む。年七十に及て、法花経六万部を誦し満つ。

遂に最後の時に臨て、苦む所無く、心違はずして、法花経を誦して失にけり。此れを見聞く人、「必ず極楽に生れたる人也」となむ、語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku14-23.txt · 最終更新: 2015/09/08 23:26 by Satoshi Nakagawa
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