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今昔物語集

巻14第20話 僧安勝持法花知前生報語 第二十

今昔、安勝と云ふ僧有けり。幼にして法花経を受け習て、昼夜に読誦す。而るに、此の安勝、身の色極て黒かりけり。世に色黒き人有りと云へども、此れは只墨の様にぞ有ける。

然れば、此れを歎く事限無し。此れに依て、此れを恥て人に交る事も為ず。而るに、極て道心ぞ有ける。常に仏を造り、経を写て供養し奉りけり。亦、貧き人を哀ぶ心有て、寒気なる人を見ては、知らぬ人也と云へども、衣を脱て与ふ。病に煩人を見ては、親き疎きを撰ばず歎き悲て、薬を求て施す。

此如くして年来を経る間、此の色の黒き事を恥ぢ歎て、長谷に参て観音に申して云く、「我れ、何の因縁有てか、世の人に似ずして此の身の黒色なる。願くは、観音、此の故を知らしめ給へ」と、三日三夜籠て祈請するに、安勝、夢に止事無き女人の出来れり。形貌端正にして、気高き事並無し。見るに、例の人と思えず。此の人、安勝に告て宣はく、「汝ぢ、前生を知るべし。汝ぢ、前生に黒き牛と有りき。法花の持者の辺に有て、常に法花経を聞き奉りき。其の故に、畜生の身を棄てて、今人と生れて、僧と成りて法花経を読誦する也。色の黒き事は、牛の気分に依て有る也。汝ぢ、更に歎くべからず。只懇に法花経を持(たもち)奉らば、今亦此の身を棄てて、兜率天上に昇て、慈氏を見奉るべし」と宣ふと見て、夢覚ぬ。

其の後、観音を礼拝し奉る。前生・後生の報を知ぬる事を喜びて返りぬ。弥よ法花経を読誦して怠る事無し。遂に最後の時に臨て、終り貴くて失にけるとなむ語り伝へたるとや。

text/k_konjaku/k_konjaku14-20.txt · 最終更新: 2015/09/08 02:16 by Satoshi Nakagawa
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