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今昔物語集

巻10第4話 漢武帝以張騫令見天河水上語 第四

今昔、震旦の漢の武帝の代に張騫と云ふ人有けり。

天皇、其の人を召て、「天河1)水上尋て参れ」と仰せ給て、遣しければ、張騫、宣旨を奉(うけたま)はりて、浮木に乗て、河の水上を尋ね行ければ、遥に行て、一の所に至れり。其の所、見も知らず。其(そこ)に、常に見る人には似ぬ様したる者に、機を数(あまた)立て、布を織る。亦、知らぬ翁有て、牛を牽(ひか)へて立てり。

張騫、「此れは、何なる所ぞ」と問ければ、「此れは天河と云ふ所也」と答ふ。張騫、亦、「此の人々は、何なる人々ぞ」と問ければ、「我等は織女(たなばた)・牽星2)(ひこぼし)」となむ云ふ。

亦、「其は、何なる人ぞ」と問ければ、張騫、「我れをば張騫となむ云ふ。天皇の仰せに依て、『天河の水上尋て参れ』と仰せを蒙て来れる也」と答ふれば、此の人々、「此(これ)こそは、天河の水上なれ。今は返りね」と云たるを聞て、張騫、返にけり。

然(さ)て、天皇に奏して云く、「天□□□□3)上を□□□て罷て侍りつ。□□所に至たれば、織□□4)布を織り、牽星は牛を曳て、「此なむ天河の水上」と申しつれば、其より罷り返たる也。所の様、常にも似ざりつ」と。

然て、張騫、未だ返り参らざりける時に、天文の者、七月七日に参りて、天皇に奏しける様、「今日、天河の辺に、知らぬ星出来たり」と。天皇、来れを聞給て、怪び思ひ給けるに、此の張騫が返り来て、申ける言を聞給てぞ、「天文の者の、『知らぬ星、出来たり』と申ししは、張騫が行たりけるが見えける也けり。実に尋ね行たりけるにこそ」と、信じ思ひ給ける。

然れば、「天河は天に有れども、天に昇らぬ人も、此なむ見えける。此れを思ふに、彼の張騫も、糸只者には非ざりけるにや」とぞ、世の人疑けるとなむ、語り伝へたるとや。

1)
天の川
2)
底本頭注「星一本牛ニ作ル下同ジ」
3)
底本頭注「天ノ下一本河ノ水上ヲ尋ネ求メトアリ」
4)
底本頭注「侍リツノ下一本一ノ所ニ至リタレバ織女ハ
text/k_konjaku/k_konjaku10-4.txt · 最終更新: 2017/03/12 02:30 by Satoshi Nakagawa
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