第86段　昔いと若き男若き女をあひ言へりけり・・・

校訂本文

昔、いと若き男、若き女をあひ言へりけり。おのおの親ありければ、つつみて言ひさしてやみにけり。

年ごろ経て、女のもとに、「なほ心ざし果たさん」とや思ひけん、男、歌を詠みてやれりけり。

　　今までに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の経ぬれば

とて、やみにけり。

男も女もあひ離れぬ宮仕へになん出でにける。

むかしいとわかきおとこわかき女をあひ
いへりけりをのをのおや有けれはつつ
みていひさしてやみにけり年ころへて
女のもとになを心さしはたさんとや思
けんおとこうたをよみてやれりけり
　　今まてにわすれぬ人は世にもあらし
　　をのかさまさま年のへぬれは／s98l

とてやみにけりおとこも女もあひはな
れぬ宮つかへになんいてにける／s99r