text:ise:sag_ise050
第50段 昔男ありけり恨むる人を恨みて・・・
校訂本文
昔、男ありけり。恨むる人を恨みて、
鳥の子を十(とを)づつ十は重ぬとも思はぬ人を思ふものかは
と言へりければ、
朝露は消え残りてもありぬべし誰(たれ)かこの世を頼みはつべき
また、男、
吹く風に去年(こぞ)の桜は散らずともあな頼みがた人の心は
また、女、返し、
行く水に数書くよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり
また、男、
行く水と過ぐるよはひと散る花といづれ待ててふことを聞くらむ
あだくらべかたみにしける男・女の、忍び歩(あり)きしけることなるべし。
挿絵
翻刻
むかし男ありけりうらむる人をうらみて とりのこをとをつつとをはかさぬとも おもはぬ人をおもふものかは といへりけれは あさ露はきえのこりてもありぬへし たれかこのよをたのみはつへき 又おとこ ふく風にこそのさくらはちらすとも あなたのみかた人のこころは/s61l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/61?ln=ja
又女返し ゆく水にかすかくよりもはかなきは おもはぬ人をおもふなりけり またおとこ 行水と過るよはひとちるはなと いつれまててふことをきくらむ あたくらへかたみにしけるおとこ女のし のひありきしけることなるへし/s62r
【絵】/s62l
text/ise/sag_ise050.txt · 最終更新: 2024/01/09 18:30 by Satoshi Nakagawa