第20段　昔男大和にある女を見てよばひて逢ひにけり・・・

校訂本文

昔、男、大和(やまと)にある女を見て、よばひて逢ひにけり。さて、ほど経て、宮仕へする人なりければ、帰り来る道に、三月(やよひ)ばかりに、楓(かへで)の紅葉(もみぢ)の、いとおもしろきを折りて、女のもとに道より言ひやる。

　　君がため手折(たお)れる枝は春ながらかくこそ秋のもみぢしにけれ

とて、やりたりければ、返事(かへりごと)は京に来着きてなん持(も)て来たりける。

　　いつの間にうつろふ色のつきぬらん君が里には春なかるらし

むかし男やまとにある女を見てよはひて
あひにけりさてほとへて宮つかへする人
なりけれはかへりくるみちにやよひはかり
にかえてのもみちのいとおもしろきを
おりて女のもとにみちよりいひやる
　　君かためたおれるえたははるなから／s31r

　　かくこそ秋のもみちしにけれ
とてやりたりけれは返事は京にきつき
てなんもてきたりける
　　いつのまにうつろふいろのつきぬ覧
　　きみかさとには春なかるらし／s31l

【絵】／s32r