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今物語
第29話 賀茂に常につかふまつりける女房の久しく参らざりける夢に・・・
校訂本文
賀茂に常につかふまつりける女房の、久しく参らざりける夢に、ゆふしでのきれに書きたりける物を、直衣着たりける人の、賜はせけるを見れば、
思ひ出づや思ひぞ出づる春雨に涙とり添へ濡れし姿を
とありけるを見て、夢覚めにけり。
「あはれ」と思ふほどに、手に物の握られたりけるを見ければ、ゆふしでのきれに、墨三十一付きたるにてあり。
ことにあはれにめでたく、涙もとどまらずぞ1)ありける。
翻刻
賀茂につねにつかふまつりける女房のひさしくまいら さりける夢にゆふしてのきれにかきたりける物をな をしきたりける人のたまはせけるをみれは 思いつやおもひそいつる春雨に涙とりそへぬれしすかたを とありけるをみて夢さめにけりあはれとおもふほとに手 にもののにきられたりけるを見けれはゆふしてのきれに すみ卅一つきたるにてありことにあはれにめてたく泪も ととまらすありける/s20r
1)
底本「ぞ」なし。諸本により訂正。
text/ima/s_ima029.txt · 最終更新: 2014/12/25 11:42 by Satoshi Nakagawa