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発心集

第七第11話(86) 源親元、普く念仏を勧め往生の事

校訂本文

中ごろ、安房守源親元といふ人ありけり。常に先生の罪を悔いて、朝夕、極楽を願ふこと浅からず。

検非違使にてありける間、施(せ)を行なひ、罪をなだめ、人を助くること多し。つひに、東山辺(へん)に堂を造りて、阿弥陀の三尊を安置す。その上に、一人の比丘の形を造りすゑて、その名を安法(あぼふ)とぞ付けたりける。これ、われ出家したらん時の名なるべし。

安房守になりて下りける時、任のはじめなれど、さらに神事(じんじ)を先とせず。ただ、仏事をのみ勤めけり。国を治めける間、かしこに五間の堂を作り、丈六の阿弥陀仏を安置せり。国中の民にあまねく念仏を勧めて、遍数にしたがひて、官物(くわんぶつ)を許す。石別(こくべつ)に十万遍をあてたりける。もし、犯の者あれば、念仏する者をば選びて必ず免す。

国の内豊かにして、民・百姓なびきしたがへり。朝夕に念仏申す声の、家ごとに絶ゆることなし。後には隣の国まで聞き伝へて、しばらくはうらやみ、しばらくは貴ぶ。

任果てて上りける時、民のうれふるさま、父母に別れたるやうにぞありける。つひに京へ入らずして、三井寺にて出家す。

終り近なりては、微妙の楽、耳に聞こえ、さまざま瑞相あらはれて、往生を遂げたるよし、伝1)に記せり。

翻刻

  源親元普勧念仏往生事
中来安房守源親元ト云人アリケリ。常ニ先生ノ罪
ヲ悔テ朝夕極楽ヲ願事不浅検非違使ニテアリケ/n21r
ル間施ヲオコナヒ罪ヲナダメ人ヲタスクル事オホシ。
終ニ東山辺ニ堂ヲ造テ阿弥陀ノ三尊ヲ安置ス。
其上ニヒトリノ比丘ノ形ヲ造スエテ其名ヲ安法ト
ゾツケタリケル。是我出家シタラン時ノ名ナルベシ。安
房守ニ成テ下リケル時任ノハジメナレド更ニ神事ヲ
サキトセズ。只仏事ヲノミ勤メケリ。国ヲ治ケル間。カ
シコニ五間ノ堂ヲ作リ。丈六ノ阿弥陀仏ヲ安置セリ。
国中ノ民ニアマネク念仏ヲ勧テ遍数ニシタガヒテ
官物ヲユルス。石別ニ十万遍ヲアテタリケル若犯ノ
者アレバ。念仏スル物ヲハエラヒテ必ユルス。国ノ内豊/n21l
ニシテ民百性ナビキ随ヘリ。朝夕ニ念仏申声ノ家
ゴトニ絶ル事ナシ。後ニハ隣ノ国マデ聞伝テ且ハウラ
ヤミ且ハタウトフ。任ハテテ上リケル時。民ノウレフルサ
マ父母ニ別レタル様ニゾアリケル。終ニ京ヘ入ズシテ。
三井寺ニテ出家ス。終リ近ナリテハ微妙ノ楽耳
ニ聞ヘ。サマサマ瑞相アラハレテ。往生ヲ遂タルヨシ伝
ニシルセリ/n22r
1)
『後拾遺往生伝』
text/hosshinju/h_hosshinju7-11.txt · 最終更新: 2017/07/31 12:18 by Satoshi Nakagawa
CC Attribution-Share Alike 4.0 International
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