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平中物語

第18段 またこの男もののたよりにいとさだかにはあらず・・・

校訂本文

また、この男、もののたよりに、いとさだかにはあらず、なまほきたるものから、さすがに文(ふみ)は取り伝へつべき人を頼りにて、上達部めきたる人の娘、呼ばひけるを、「もし、いかならむ」と思ひつつ見けるを、男、「うれし」と思ひて、言ひかはしけること、二度三度(ふたたびみたび)ばかりして、のちのちはせざりければ、

  身を燃やすことぞわりなきすくも火の煙(けぶり)も雲となるを頼みて

とあれど、さらに返しなし。

されば、かの男、文伝へける人に会ひて、「いかなる事を聞こし召したる1)にかあらむ」など言ひければ、「なでうことにもあらじ。守りかしづき奉り給へば」と言ひければ、「さもこそはあらめ」と思ひて、「さらば、よき折々に奉らせ給へ」。さて、文に思ひけることどもの限り、多う書きて取らせたりければ、「させむ」とて、持て行きけれど、また、その返り事もせざりければ、男、また言ひやる。

  掃き捨つる庭の屑(くづ)とや積るらむ見る人もなきわが言の葉は

と言ひやれど、返り事もせざりければ、また、

  秋風のうち吹き返す葛(くず)の葉のうらみてもなほ恨めしきかな

かくのみ言へど、返り事さらにせず。

あやしさに、「いかなるぞ。さだかなる便りのなきか」とて、求めける。この文伝ふる人は、もとより、少しほきたるやうに思えければ、さかうも言はで、ねんごろに心に入れて尋ねければ、「いと、ものはかなき便りにつけて、ありしことななり。その人は、さだかにも知らじ。おのらも見しかば、はじめわたりの返り事はすめりし。その人の、ものへいましぬめりしかば、心には思ひながら、えせぬぞ。みづからは手もいと悪し。歌、はた知らず。あたらことどもを」とぞ言ひける。

いやしからぬ人も、さるものにこそはありけれ。

さて、いふかひなく聞きなして、やみにける。のちに聞きければ、いたつきもなく、人の家刀自にぞなりにける。

翻刻

はす又このおとこもののたよりにいとさた
かにはあらすなまほきたるものからさすか
にふみはとりつたへつへき人をたよりにて
上達部めきたる人のむすめよはひけるを
もしいかならむとおもひつつみけるをおとこ
うれしとおもひていひかはしける事ふたた
ひみたひはかりしてのちのちはせさりけれは
  みをもやすことそわりなきすくもひ
  のけふりもくもとなるをたのみて
とあれとさらにかへしなしされはかの男
ふみつたへける人にあひていかなる事をき/24オ
しめしたるにかあらむなといひけれはな
てうことにもあらしまもりかしつきたて
まつりたまへはといひけれはさもこそは
あらめとおもひてさらはよきをりをりに
たてまつらせたまへさてふみにおもひける事
とものかきりおほうかきてとらせたりけれ
はさせんとてもていきけれと又そのかへり事
もせさりけれはおとこ又いひやる
  はきすつるにはのくつとやつもるらむ
  見る人もなきわかことのはは
といひやれとかへり事もせさりけれは又/24ウ
  あきかせのうちふきかへすくすのはの
  うらみてもなをうらめしきかな
かくのみいへとかへり事さらにせすあやし
さにいかなるそさたかなるたよりのなきかと
てもとめけるこのふみつたふる人はもとより
すこしほきたるやうにおほえけれはさかう
もいはてねんころに心にいれてたつねけれは
いとものはかなきたよりにつけてありし
事ななりその人はさたかにもしらしおの
らも見しかははしめわたりのかへり事は
すめりしその人のものへいましぬめりしかは/25オ
心にはおもひなからえせぬそ身つからはても
いとあしうたはたしらすあたら事ともを
とそいひけるいやしからぬ人もさる物にこそは
ありけれさていふかひなくききなして
やみにけるのちにききけれはいたつきも
なく人のいゑとうしにそなりにける又この/25ウ
1)
影印「きしめしたる」「こ」字見えず。
text/heichu/heichu18.txt · 最終更新: 2016/12/23 21:21 by Satoshi Nakagawa
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