拓本
たくほん
概要
石や木、金属などに刻された文字・画像などを墨により紙に写し取ったもの。唐代では打本・搨本(とうほん)などと呼ばれ、宋代以降拓本というようになった。
現存する最古の拓本は、唐の永徽4年(653)に採拓された、太宗皇帝の筆になる『温泉銘』で、敦煌文書の一つとして発見され、現在はパリの国立図書館に所蔵されているが、唐代以前の南梁ごろから行われていたと考えられている。
採拓の方法
乾拓
石碑などの面に薄い紙をあてがい、釣鐘墨のような柔らかい墨で摺って採拓する。素早く採らなければならないときなどに行う。
湿拓
石碑などの面にあてがった紙を水で濡らし、ブラシなどで凹面に紙を食い込ませ、墨を付けたタンポ(綿を布でくるんだもの)などで凸面に墨を乗せて取る方法。一般的に拓本というと、こちらを指す。 墨の乗せ方によって、擦拓法(さったくほう)と樸拓法(ぼくたくほう)の二種類がある。
擦拓法
タンポや毛氈を巻いたものに墨を付け、紙の上を滑らせて墨を付ける。明代以前によく行われた方法。
樸拓法
墨の濃淡
墨を重ねて打ち、黒い部分を真っ黒にする拓本を烏金拓(うきんたく)といい、薄く取るのを蝉翼拓(せんよくたく)という。
形式
全套本(ぜんとうぼん)
整拓ともいい、石碑などの碑面をそのままの形で拓本に取ったもの。
大きいので保存が難しく、臨書の手本にはならないが、石碑などの全貌が分かるため資料としては最適。
剪装本(せんそうぼん)
全套本を一定の字数からなる行に切り離してから並べなおし、[法帖]などの冊子に仕立て直したもの。
碑の全貌は分からないが、コンパクトなため保存に適し、臨書の手本などに使われる。いわゆる旧拓はほとんどがこの形態になっている。
拓本の新旧
石碑は時代を降るにつれて、磨滅したり破損したりして次第に原型が失われていく。また、拓本のみ残って、もとの碑が行方不明になることもある。そのため、拓本の古いものは旧拓といわれ、新しいもの(新拓)よりも価値が高いとされる。また、旧拓は皇帝や文人らに珍重されたため、古人の書いた識語や題箋、蔵書印などが付き、さらに価値を高める。
一般にどの時代から旧拓というかに特に決まりはないが、一般的には清朝末期ぐらいまでを指すことが多い。
拓本の新旧は、文字の残存程度や石花(碑面の損傷や剥離などで文字以外の部分が白くなること)の位置、大きさなどで判断するが、それらに墨を塗って修正し、旧拓に見せかけたニセモノも多い。
なお、拓本の新旧を調べる文献として方若『校碑随筆』(現在は王壮弘増補による『増補校碑随筆』)や楊震方『碑帖叙録』などがある。
原石からの拓本でないもの
重刻(じゅうこく)
原石が滅びたり、損傷が激しいため、旧拓によって新たに彫りなおしたもの。
模刻(もこく)
木版などで印刷されたもの。または、土産品として売るために、原石に似せて彫られたもの。
偽刻
本来存在しない石碑を、その時代の文体、書風に似せて作ったもの。