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text:mogyuwaka:ndl_mogyuwaka14-36

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蒙求和歌

第14第36話(236) 嵇紹不孤

校訂本文

嵇紹不孤1)

嵇紹、字(あざな)は延祖といふ。嵇康が子なり。

昔、嵇康、人の讒によりて、死罪に行はるる時、嵇紹を呼びていはく、「われ死ぬといふとも山公あり。なんぢ、孤児(みなしご)たるべからず」と言ひき。山公は山濤なり。嵇康と竹林の友にて、心ざし浅からざりしゆゑなり。山濤、育み助けけり。

嵇紹、召されて、侍中になされにけり。後に、王の軍(いくさ)、汾陰に敗るる時2)、百官、逃げ走(はし)りけるに、嵇紹、一人おほやけに付き添ひ奉りて、軍の矢を防くほどに、当りて命を失ひてけり。

嵇紹が身より、血流れ出でて、おほやけの御服に触れ注きけり。戦(いくさ)終りて、人、「御服を洗はむ」と申すに、「嵇侍中が血なり。捨つることなかれ」とて歎き給ひけり。

  頼み来し竹の林の友のみぞわが子のよをもあはれと思はむ

翻刻

愁紹不孤  〃〃字は延祖といふ愁康か子なりむかし/愁康人の讒によりて死罪にをこなはるると
き愁紹をよひていはくわれしぬといふとも山公ありなむちみ
なしこたるへからすといひき山公は山濤なり愁康と竹林の
ともにて心さしあさからさりしゆえなり山濤はくくみたすけけり愁
紹めされて侍中になされにけり後に王のいくさ汾陰にかふるる
とき百官にけはしりけるに愁紹ひとりをほやけにつきそひたて
まつりていくさのやをふせくほとにあたりていのちをうしなひて
けり愁紹かみより血なかれいててをほやけの御服にふれ
そそきけりいくさをはりて人御服をあらはむと申に愁
侍中か血なりすつることなかれとてなけきたまひけり
    たのみこしたけのはやしのとものみそわかこのよをもあはれとをもはむ/d2-51r
1)
底本、「愁紹」。典拠により訂正。以下すべて同じ。
2)
「敗るる時」は底本「カフルルトキ」。文脈により訂正。
text/mogyuwaka/ndl_mogyuwaka14-36.1522810911.txt.gz · 最終更新: 2018/04/04 12:01 by Satoshi Nakagawa