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蒙求和歌
第3第1話(36) 張翰適意 立秋
校訂本文
張翰適意 立秋
張翰、斉王1)に召されて、東曹掾たりき。斉にある時、秋の風の颯然として、初めて至れるに、江南の菰菜の羹(あつもの)・鱸魚の膾(なます)を思ひ出でて、にはかに帰らむとす。人、とどむれども聞かず。
「人の楽しぶこと、心にかなふをよしとす。公事(おほやけごと)にほだされて、数千里を守りて、司(つかさ)・位(くらゐ)を求めても、何にかはせむ」と言ひて、江南に帰りぬ。
その後、ほどなく斉王亡び給ひにければ、時の人、「張翰は、世の久しかるまじきことを、かねて悟りて、去りにけるなり」とぞ言ひける。
故郷(ふるさと)の難波の波に思ひ立つおりしも袖に秋の上風(うはかぜ)
翻刻
張翰適意 立秋 張翰斉王にめされて東曹掾(えむ)たりき斉に有る時秋の風の 颯(さつ)然としてはしめていたれるに江南の菰菜(さい)のあつもの鱸魚の なますを思いててにはかにかへらむとす人ととむれともきかす人の たのしふこと心にかなふをよしとすをほやけことに羇(ほたされて)数千 里をまもりてつかさくらひをもとめてもなににかはせむと云て 江南にかへりぬその後无程斉王ほろひたまひにけれは時の 人張翰はよのひさしかるましきことを兼てさとりてさり にけるなりとそいひける ふるさとのなにはのなみにをもひたつをりしもそてにあきのうはかせ/d1-21r
1)
司馬冏
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