ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:kankyo:s_kankyo028

文書の過去の版を表示しています。


閑居友

下第7話 唐土の人、馬牛の物憂ふる聞て発心する事

もろこしの人馬牛の物うれうる聞て発心する事

唐土の人、馬牛の物憂ふる聞て発心する事

校訂本文

もろこしに侍し時人のかたり侍しは昔この
国にいやしからぬ人ありけりそのいゑきはめて/下22オb193
ゆたか也秋夜高楼にのほりて月おなかめてありけ
るに夜しつまり人ねさたまりておとする物なし
かかりけるにそこなりけむむまとうしともの
かたりをなんしける馬のいふやうあなかなし
わひしいかなるつみのむくひにてこの人につか
はれてひるは日くらしといふはかりによくつかはれたる
らんよるも心よくうちやすむへきにつゑめことに
いたくわひしくあまりくるしくて心のままにもゑ/下22ウb194
やすますあすまたいかさまにつかはれんとすらん
これををもふにとにかくにいねもやすからすといふ
また牛のいふやうされはこそあはれかなしき
ものかな我かかる身をうけたるとはおもへともさし
あたりてはたたこの人のうらめしさするかた
なくおほゆるといひけりこれをきくに心もあられす
かなしくてめとむすめとにいふやう我はこよひし
のひてこのいゑをいてんとおもふ事ありかかる/下23オb195
事侍そやいまありへんままにはかやうの事そつもる
へきたからは身のあたにて侍にこそこのいゑ
をはすてていつくともなくゆきて人もなからん
所のしつかならんにゆきて後世の事おもひ
てあらむする也そこたちはここにとまるへしと
いひけれはふたりの人のいふやうたれをたのみ
てある身なれはかのこりては侍へきいつくにて
もおはせんかたにこそしたひきこゑめといふ/下23ウb196
さらはさにこそは侍なれとておやこ三人しのひに
いてにけりさてはるかにゆきて思ひかけぬ山の
ふもとにいほりかたのやうにかまゑてさうきといふ
ものおひに三つくりてこのむすめにてうりに
いたしけるかくてよをわたりけるほとにある時
このさうきをかふ人なしむなしく返ぬまた
つきの日のふんくしてもていてたれともその日も
かうものなしまたつきの日のふんくして九の/下24オb197
さうきおもてゆきたりけれともこの日もかうもの
なしむすめ思なけきてかくてのみ日はかさなる
わか父母の命もなからゑかたかるへしいかさまにせ
むとわつらひけるほとに道にせにを一貫おとした
りけりこの女さうきをこのせににむすひつけて
さうきのあたひをかそゑてせにをとりてのこり
のせにとさうきとをはもとの所におきてきにけり
さてこのよしをかたりけれは父おほきにおとろ/下24ウb198
きていふやうなにわさいとなまんとてもちたる
銭にかありつらむおやのものにてもありつらむし
うのものにてもあるへしたとひとるにても一の
さうきおおきて一のあたひをこそとるへけれいか
なるものかひとりしてさうきを九かう事あるへ
きかかるにこりある心もたらんものはうとましく
おほゆはやみなもてゆきてもとの銭につらぬき
くしてたたさうきをとりてこよといふむすめゆき/下25オb199
てみるにこのせになをありけれはもとのままにして
さうきをとりてきてみれはちちも母もともにてを
あはせてかうへをたれてしににけりあなかな
しのわさや我もありてはなにかせんとてむす
めもそはにいてしににけりとなんこれをきき
侍しにあはれつくしかたく侍きまことにさやうの心
をもちてこそ仏のみちをもねかふへきに身にわつ
かに道をまなふやうにすれとも心はつねににこりに/下25ウb200
しみたらんは定て三宝をあさむくとかもある
へしいかか侍へからむとかなしくあちきなしかのむか
しの三人いまいかなる菩薩にていつれの仏のみ国
にかいまそかるらんねかはくは我心をあはれみて念々に
かれにひとしからむとおもふこころをたまへと
心のうちにねんし侍きさてもこの人とものすかた
をもゑにかきてうるとそかたり侍しすへても
ろこしはかやうの事はいみしくなけありてなき/下26オb201
あとまても侍にやこのやまとの国にはさやうの
人のすかたかうものもよにあらしかきてうらん
とする人もまたまれなるへきにや/下26ウb202

翻刻

もろこしに侍し時人のかたり侍しは昔この
国にいやしからぬ人ありけりそのいゑきはめて/下22オb193
ゆたか也秋夜高楼にのほりて月おなかめてありけ
るに夜しつまり人ねさたまりておとする物なし
かかりけるにそこなりけむむまとうしともの
かたりをなんしける馬のいふやうあなかなし
わひしいかなるつみのむくひにてこの人につか
はれてひるは日くらしといふはかりによくつかはれたる
らんよるも心よくうちやすむへきにつゑめことに
いたくわひしくあまりくるしくて心のままにもゑ/下22ウb194
やすますあすまたいかさまにつかはれんとすらん
これををもふにとにかくにいねもやすからすといふ
また牛のいふやうされはこそあはれかなしき
ものかな我かかる身をうけたるとはおもへともさし
あたりてはたたこの人のうらめしさするかた
なくおほゆるといひけりこれをきくに心もあられす
かなしくてめとむすめとにいふやう我はこよひし
のひてこのいゑをいてんとおもふ事ありかかる/下23オb195
事侍そやいまありへんままにはかやうの事そつもる
へきたからは身のあたにて侍にこそこのいゑ
をはすてていつくともなくゆきて人もなからん
所のしつかならんにゆきて後世の事おもひ
てあらむする也そこたちはここにとまるへしと
いひけれはふたりの人のいふやうたれをたのみ
てある身なれはかのこりては侍へきいつくにて
もおはせんかたにこそしたひきこゑめといふ/下23ウb196
さらはさにこそは侍なれとておやこ三人しのひに
いてにけりさてはるかにゆきて思ひかけぬ山の
ふもとにいほりかたのやうにかまゑてさうきといふ
ものおひに三つくりてこのむすめにてうりに
いたしけるかくてよをわたりけるほとにある時
このさうきをかふ人なしむなしく返ぬまた
つきの日のふんくしてもていてたれともその日も
かうものなしまたつきの日のふんくして九の/下24オb197
さうきおもてゆきたりけれともこの日もかうもの
なしむすめ思なけきてかくてのみ日はかさなる
わか父母の命もなからゑかたかるへしいかさまにせ
むとわつらひけるほとに道にせにを一貫おとした
りけりこの女さうきをこのせににむすひつけて
さうきのあたひをかそゑてせにをとりてのこり
のせにとさうきとをはもとの所におきてきにけり
さてこのよしをかたりけれは父おほきにおとろ/下24ウb198
きていふやうなにわさいとなまんとてもちたる
銭にかありつらむおやのものにてもありつらむし
うのものにてもあるへしたとひとるにても一の
さうきおおきて一のあたひをこそとるへけれいか
なるものかひとりしてさうきを九かう事あるへ
きかかるにこりある心もたらんものはうとましく
おほゆはやみなもてゆきてもとの銭につらぬき
くしてたたさうきをとりてこよといふむすめゆき/下25オb199
てみるにこのせになをありけれはもとのままにして
さうきをとりてきてみれはちちも母もともにてを
あはせてかうへをたれてしににけりあなかな
しのわさや我もありてはなにかせんとてむす
めもそはにいてしににけりとなんこれをきき
侍しにあはれつくしかたく侍きまことにさやうの心
をもちてこそ仏のみちをもねかふへきに身にわつ
かに道をまなふやうにすれとも心はつねににこりに/下25ウb200
しみたらんは定て三宝をあさむくとかもある
へしいかか侍へからむとかなしくあちきなしかのむか
しの三人いまいかなる菩薩にていつれの仏のみ国
にかいまそかるらんねかはくは我心をあはれみて念々に
かれにひとしからむとおもふこころをたまへと
心のうちにねんし侍きさてもこの人とものすかた
をもゑにかきてうるとそかたり侍しすへても
ろこしはかやうの事はいみしくなけありてなき/下26オb201
あとまても侍にやこのやまとの国にはさやうの
人のすかたかうものもよにあらしかきてうらん
とする人もまたまれなるへきにや/下26ウb202
text/kankyo/s_kankyo028.1438544751.txt.gz · 最終更新: 2015/08/03 04:45 by Satoshi Nakagawa