ある犬、肉(ししむら)をくはへて川を渡る。真ん中ほどにて、その影水に映りて大きに見えければ、「わがくはゆる所の肉より大きなる」と心得て、これを捨ててかれを取らんとす。かるがゆゑに、二つながらこれを失なふ。
そのごとく、重欲心()の輩(ともがら)は、他の財(たから)をうらやみ、ことにふれてむさぶるほどに、たちまち天罰をかうむる。わが持つところの財をも失なふことありけり。
十三 いぬとししむらの事 あるいぬししむらをくはへて河をわたるまんなか ほとにてそのかけ水にうつりて大きにみえけれは わかくはゆる所のししむらより大きなると心えて これをすててかれをとらんとすかるかゆへにふた つなから是をうしなふそのことくちうよくしんの ともからは他のたからをうらやみことにふれてむ さふる程にたちまち天罰をかうむるわかもつ所の たからをもうしなう事ありけり/2-51r