text:ise:sag_ise023b
第23段(2) さて年ごろ経るほどに女親なく頼りなくなるままに・・・
校訂本文
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく頼りなくなるままに、「もろともにいふかひなくてあらんやは」とて、河内(かうち)の国高安(たかやす)の郡(こほり)に、行(い)き通ふ所いできにけり。
さりけれど、このもとの女、悪(あ)しと思へる気色(けしき)もなくて、出だしやりければ、男、「異心(ことごころ)ありて、かかるにやあらむ」と思ひ疑ひて、前栽(せんざい)の中に隠れゐて、河内へ往(い)ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧(けさう)じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白波たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆらん
と詠みけるを聞きて、「かぎりなくかなし」と思ひて、河内へも行(い)かずなりにけり。
挿絵
翻刻
さてとしころふるほとに女おやなくた よりなくなるままにもろともにいふかひ なくてあらんやはとてかうちのくにた かやすのこほりにいきかよふ所いてき にけりさりけれとこのもとの女あしと思 へるけしきもなくていたしやりけれは 男こと心ありてかかるにやあらむとおもひ うたかひてせむさいのなかにかくれ ゐてかうちへいぬるかほにてみれはこの/s37l
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/37?ln=ja
女いとようけさうしてうちなかめて 風ふけはおきつしらなみたつた山 夜半にやきみかひとりこゆらん とよみけるをききてかきりなくかなしと おもひてかうちへもいかすなりにけり/s38r
【絵】/s38l
text/ise/sag_ise023b.txt · 最終更新: 2023/12/18 19:04 by Satoshi Nakagawa