とはずがたり
年返りぬれば、いつしか六条殿の御所にて、経手(きやうしゆ)十二人にて、如法経書かせらる。去年(こぞ)の夢、名残思し召し出でられて、人のわづらひなくてとて、塗籠(ぬりごめ)の物どもにて行なはせらる。
正月より、御指の血を出だして、御手の裏を翻して、法華経をあそばすとて、今年は正月より二月十七日までは御精進なりとて、御傾城などいふ御沙汰、絶えてなし。
いかなるへき事にかとふしきなれとしかへりぬれはいつしか 六条殿の御所にて経しゆ十二人にて如法経かかせらるこその 夢なこりおほしめし出られて人のわつらひなくてとて ぬりこめの物ともにてをこなはせらる正月より御ゆひのちを いたして御てのうらをひるかへして法花経をあそはすとて ことしは正月より二月十七日まては御しやうしんなりとて御 けいせいなといふ御さたたえてなしさる程に二月の末つ/s43r k1-76