醒睡笑 巻7 謡
銭を貸したる人の方へ、年の暮れに使をつかはし乞ひければ、返事に、「三年・四年利分(りぶん)をなしたり。もはやそなたのものをば負はぬ」と言ふ。貸主、大きに腹立し、対顔して、「本利ともにすませ」と。「いや、利分ばかりにてすまされよ。釈迦の時代から、本利ともになすことはない」。「それは何としたる存分ぞや」。「されば熊野(ゆや)1)に、『仏ももとは捨てし世の』と作り、本(もと)なさぬは2)、仏さへ許されたは、さて」。
一 銭をかしたる人の方へ年のくれに使をつかはし こひければ返事に三年四年利分(りぶん)をなし たりもはやそなたの物をばおはぬと いふかしぬし大に腹立し対顔して本利 共にすませといや利分斗にてすまされ よ尺迦(しやか)の時代から本利ともになす事は ないそれはなにとしたる存分そやされは/n7-48r
ゆやに仏ももとはすてし世のと作りも となさねば仏さへゆるされたはさて/n7-48l