醒睡笑 巻7 謡
「三五夜中の新月は、宵よりくまなき空の色、寝られんものか、いざ行かん」と、なほざりならずうちとけて、語る宿にぞ集まりぬ。亭、白粥(しらかゆ)を煮て出だせば、「月海上(かいしやう)に浮かんでは1)」と、興をもよほし讃めにけり。
しばしほどあり、吸ひ物に、鰻(うなぎ)調味しすゑたれば、「合ひに合うたるもてなしや。月海上に浮かんでは、鰻も波を走るか2)」と、申せし人のゆかしさよ。
一 三五夜中の新月は宵(よひ)よりくまなき空の色/n7-46r
ねられん物かいさゆかんとなをさりならすうちとけて かたるやとにぞあつまりぬ 亭しらかゆを 煮(に)て出せば月海上(かいしやう)にうかんではと興をも よほしほめにけりしはし程ありすひ物に 鰻(うなき)調味(てうみ)しすへたれはあひにあふたるもて なしや月海上にうかんては うなきも浪 をはしるかと申せし人のゆかしさよ/n7-46l