醒睡笑 巻7 謡
熊野侍は、盃を差す段には、必ず謡ひて差すが法なり。祝言の時、ある人、通盛1)の、「憂きながら心の少しなぐさむは、げに海辺(かいへん)のわざ2)」と謡ひたれば、差さるる者、そのまま脇差(わきざし)をねぢまはし、「親ぢや人のあなたにて聞かるるに、海辺(かいへん)のことを謡うたるは、われを馬鹿にしたり。聞くまい」とて狂ひしかば、座敷の興さめぬ。
一 熊野侍は盃をさす段には必謡てさすか法 なり祝言の時ある人通盛のうきなから 心のすこしなくさむはげに海辺(かいへん)のわざと うたひたれはささるる者そのまま脇指を ねぢまはし親しや人のあなたにて聞るる/n7-37l
に海辺(かいへん)の事をうたふたるは我れを馬鹿(ばか) にしたりきくまいとてくるひしかばざしき の興さめぬ/n7-38r