醒睡笑 巻7 いひ損ひはなほらぬ
後世を大事と願ふ人、わが頼む寺に入り、剃刀(かみそり)をいただき、法名(ほうみやう)を乞ふに、「教鸞(けうらん)」と付けたり。
手を合はせて、「ともかくも任せ参らする身には候へども、うち聞くところ、心乱れ狂気したるやうにこそとりなし候はめ。同じくは、名をかへて賜び候へかし」。「さらば、付け直さん」とて、「鸞行(らんぎやう)」とこそ。
始めのは物狂はしきばかり、後のははてた1)。
一 後世を大事とねがふ人我がたのむ寺に入剃(かみ) 刀(そり)をいただき法名をこふに教鸞(けうらん)とつけた り手をあはせてともかくもまかせ参らする 身には候へともうちきく処心みたれ狂気(きやうき) したるやうにこそとりなし候はめ同(おなしく)は 名をかへてたび候へかしさらばつけなをさんとて 鸞行(らんぎやう)とこそ 始のは物くるはしきはかり後のははてた/n7-16r