醒睡笑 巻7 思の色を外にいふ
惣領(そうりやう)の二十(はたち)に余れど、つひに嫁をむかふる噂もなきあり。年の暮れに、親たる人、かのをぢを呼びて、「『正月の小袖、去年(こぞ)のも気にあはずして着ぬ』と言ふ。今年のをば、よく主(ぬし)に好ませ、染め小袖の紋に何を付けん」と問はせければ、返事を聞き給へ。「ただ造作(ざうさ)もなし。家の端(はし)に独り寝するところを付けたらよからう」。
一 惣領(そうりやう)の廿にあまれどつゐによめをむかふる 噂(うはさ)もなきあり年の暮に親たる人彼をち をよびて正月の小袖去年(こぞ)のも気にあはず してきぬといふ今年のをは能(よく)ぬしに このませ染小袖のもんになにをつけんと とはせけれは返事を聞給へ唯造作(ざうさ)も なし家の端(はし)にひとりねする処をつけ たらよからふ/n7-4r