醒睡笑 巻6 恋のみち
貧なる僧の、うちほれて知音(ちいん)する若衆に、大名の執心(しふしん)せられ、定家1)の色紙を出だされたれば、坊主も負けじと思ひ、弘法大師2)の筆といふなる心経をやりぬ。重ねて大名より、刀・脇差を金(こがね)づくりにして送られし3)を見て、坊主の詠める、
何事も人に負けじと思へども金刀(こがねがたな)に手をぞつきける
一 貧なる僧の打ほれて知音する若衆に大 名の執心せられ定家の色紙を出された れは坊主もまけしとおもひ弘法大師の筆 といふなる心経をやりぬ重て大名より刀脇 指を金つくりにして送たれしを見て坊主のよめる 何事も人にまけしと思へとも 金刀に手をそつきける/n6-37r