醒睡笑 巻6 恋のみち
七十に近き姥(うば)あり。似合ひたる者の方へ嫁入りする。孫なる童(わらは)、牛に乗せて行く道に、さはる荷物のあるを見て、かの孫、牛に声をかけ、「退(の)いて通れ」と言ひけり。姥、これを聞き、「『添ふて通れ』と言はんこそ本意(ほい)ならめ。『退いて』は不吉なり。いやいや今日は行くまい」と嫁入りをやめけるも、興あり。
一 七十にちかきうばありにあひたる者のかたへ よめ入する孫なるわらは牛にのせてゆく道 にさはる荷物のあるをみて彼孫牛に声を かけのいてとをれといひけり姥これをききそ ふてとをれといはんこそほいならめのいては不 吉也いやいやけふはゆくまいとよめ入をやめけるも興あり/n6-34r