醒睡笑 巻6 児の噂
今朝とくから北谷1)へ大児(おほちご)の呼ばれておはしたるが、春の日の長きも遊ぶ時には短かく覚ゆるは常の習ひ、夢ばかりにことさり、夕陽日に入相(いりあひ)の鳴るころ、わが住む坊に帰り、起きてみつ寝てみつ、苦しさうにいたはられけるを、小児(こちご)見かね、「そなたの煩ひは、心地いかがある」と問はれし。「ただ今日のもてなしの餅を食ひ過ぐして、胸の焼くるが苦しい」と言はれしを、「われもちと、その類火にあうてみたいよ」と。
余義もない望みですよ2)。
一 今朝とくから北谷へ大児のよはれておはし たるか春の日のなかきもあそふ時にはみしかく おほゆるはつねのならひ夢はかりに事さり夕陽 日に入あひのなる比わかすむ坊にかへり おきてみつねてみつくるしさうにいたはられ けるを小児みかねそなたの煩はここちいかかある/n6-6l
ととはれしたたけふのもてなしの餅をくひ 過してむねのやくるかくるしいといはれしを われもちとそのるいくわにあふて見たいよと 餘義もないのそみてすよ/n6-7r