醒睡笑 巻5 人はそだち
摂津国(つのくに)の内、小妻といふ所は海辺(かいへん)にて、漁人(ぎよじん)多く住めり。いづくよりとなく大鷹一つ、もとそれて来たり、畠にゐるを捕らへ、宿に帰り、大きなる籠(かご)に入れて置きけり。
二十ばかりなる惣領の子が、「何をがな、鷹の餌(ゑど)にせうやれ」と言ふ。親聞きて、「餌とは何ぞや。どこぞ素人のやうに」と叱る。「何と言ふがよきぞ」と問ふ。「鷹のをば粮米(らうまい)と言ふがよい」。
一 つの国の内小妻(こつま)といふ処は海辺(かいへん)にて漁人(きよしん) 多くすめりいつくよりとなく大鷹一もとそれ て来り畠にゐるをとらへ宿に帰り大なる かごに入てをきけり廿はかりなる惣領の子が/n5-55l
なにをがな鷹のゑどにせうやれといふ親 聞てゑどとはなんそやどこぞしらうとのやう にとしかるなにといふが能(よき)そととふ鷹の をはらうまいといふがよい/n5-56r