醒睡笑 巻4 唯あり
下総の国とかや聞く。墨染の衣着て、掛絡(くわら)をかけたる僧、行脚す。また武士の馬上にて行くに合ふ。かの僧、愚鈍なり。覚えたることとては、「天下泰平国土安穏」、この一語のほかは知らず。
さるまま、かの侍をむつかしく思ひ、掛絡をはづし懐(ふところ)に入るる。すなはち馬より飛び降り、「敵を見て旗を巻く時、いかん」とありし。言下に「天下泰平国土安穏」と。武士、問訊(もんじん)す。
運は天にあり。持ちあはせたる竹鑓にて大敵を払つたは1)。
一 下総の国とかやきく墨染の衣きて掛/n4-55r
絡(ら)をかけたる僧(そう)行脚(あんきや)す又武士の馬上 にて行にあふかの僧愚鈍(くとん)なり覚たる事 とては天下泰平(たいへい)国土安穏(こくとあんをん)此一語の外はし らすさるまま彼侍をむつかしく思ひ掛絡(くわら) をはつしふところにいるる即(そく)馬より飛(とひ)おり 敵をみて旗(はた)を巻(まく)ときいかんとありし言下に 天下泰平国土安穏と武士(ふし)問訊(もんちん)す 運は天にありもちあはせたる竹鑓にて大敵を払つたは/n4-55l