醒睡笑 巻4 そでない合点
酒の出たるを一口飲みて、「さてさて、よき御(ご)すい1)で候ふ」と讃むる。人みな笑ふ。腹立(ふくりふ)して、「わがものを知らねば、必ず人の金言をえ聞かぬぞや。かやうに良き酒をば、昔より『御すい』といふが、本(ほん)にてあるぞよ」。「それは誰に聞かれたるぞ」。「いや、『楊貴妃2)』に、『まづ天上の五すい3)』とつくつたは」。
一 酒の出たるを一口のみて扨々よき御すいで 候とほむる人みな笑ふ腹立して我か物を しらねばかならす人の金言をえきかぬぞや かやうによき酒をは昔より御すいといふか本 にてあるそよそれは誰にきかれたるそいや 楊貴妃に先天上の五すいとつくつたは/n4-54r