醒睡笑 巻1 無智の僧
剃髪染衣(ていはつぜんえ)の僧、秘鍵(ひけん)1)を習ふ。「真言は不思議なり。観誦(くわんじゆ)すれば無明(むみやう)を除く」と教へけるに、「いや、それは片言さうな」と疑ふ。「大師2)の言葉これなり。そちはまた何と読まんや」。かの僧、「われはただ、『勧進(くわんじん)すれば籾(もみ)をもらふ』であらう」と直しけり。
一 剃髪染衣(ていはつせんゑ)の僧(そう)秘鍵(ひけん)をならふ真言(しんこん)は不思議(ふしき)也/n1-64l
観誦(くはんしゆ)すれは除(のそく)無明(むみやうを)教へけるにいやそれは かたことさうなとうたかふ大師の言葉これ なりそちは又なにとよまんや彼僧我はたた 勧進すれはもみをもらうてあらうとなをしけり/n1-65r