醒睡笑 巻1 鈍副子
小僧あり。小夜(さよ)更けて、長棹(ながざを)を持ち、庭をあなたこなたと振り回る。坊主、これを見付け、「それは何事をするぞ」と問ふ。「空の星が欲しさに、打ち落さんとすれども落ちぬ」と。「さてさて鈍なる奴や。それほど作(さく)がなうてなるものか。そこからは棹が届くまい。屋根へ上がれ」と。
お弟子はとも候へ。師匠の指南ありがたし。1)
星一つ見付けたる夜の嬉しさは月にもまさる五月雨(さみだれ)の空
一 小僧あり小夜ふけて長棹(なかさほ)をもち庭をあなた こなたとふりまはる坊主是を見付それは 何事をするそととふ空の星(ほし)かほしさに うちをとさんとすれともおちぬと扨々鈍なる やつやそれほと作かなうてなる物かそこからは 棹(さほ)かととくまいやねへあかれと お弟子はとも候へ師匠の指南ありかたし 星一つ見つけたる夜の嬉しさは 月にもまさる五月雨の空/n1-54l