text:yomeiuji:uji046
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text:yomeiuji:uji046 [2014/09/28 13:42] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji046 [2018/03/26 15:20] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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**伏見修理大夫俊綱の事** | **伏見修理大夫俊綱の事** | ||
- | 是も今はむかし、伏見修理大夫は宇治殿の御子にておはす。あまり公達おほくおはしければ、やうをかへて、橘俊遠といふ人の子になし申て、蔵人になして、十五にて尾張守になし給てけり。 | + | ===== 校訂本文 ===== |
- | それに、尾張にくだりて、国おこなひけるに、その比熱田神いちはやくおはしまして、をのづから、笠をもぬがず、馬のはなをむけ、無礼をいたすものを、やがてたち所に罰せさ((底本ま))せおはしましければ、大宮司の威勢、国司にもまさりて、国の者共おぢおそれたりけり。 | + | これも今は昔、伏見修理大夫((藤原俊綱・橘俊綱))は宇治殿((藤原頼通))の御子にておはす。あまり公達多くおはしければ、やうをかへて、橘俊遠といふ人の子になし申して、蔵人になして、十五にて尾張守になし給ひてけり。 |
- | それに、この国の司くだりて、国のさたどもあるに、大宮司われはと思てゐたるを、国司とがめて、「いかに大宮司ならんからに、国にはらまれては見参にもまいらぬぞ」といふに、「さきざきさる事なし」とてゐたりければ、国司むつかりて「国司も国司にこそよれ。我にあひては、かうはいふぞ」とていやみ思て、「しらん所ども点ぜよ」などいふ時に、人ありて大宮司にいふ。「まことにもこくしと申すに、かかる人おはす。見参にまいらせ給へ」といひければ、「さらば」といひて、衣冠にきぬいだして、ともの物ども丗人ばかりぐして、国司のがりむかひぬ。 | + | それに、尾張に下りて、国行ひけるに、そのころ、熱田神、いちはやくおはしまして、おのづから、笠をも脱がず、馬の鼻を向け、無礼をいたすものを、やがてたちどころに罰せさせ((「罸せさせ」は底本「罸せませ」。諸本により訂正。))おはしましければ、大宮司の威勢、国司にも勝りて、国の者ども、怖ぢ恐れたりけり。 |
- | 国司出あひ対面して、人どもをよびて、「きやつ、たしかにめしこめて勘当せよ。神官といはんからに、国中にはらまれて、いかに奇怪をばいたす」とて、めしたててゆふ程に、こめて勘当す。その時大宮司「心うき事に候。御神はおはしまさぬか。下臈の無礼をいたすだに、立所に罰せさせおはしますに、大宮司をかくせさせて御らんずるは」となくなくくどきて、まどろみたる夢に、あつたの仰らるるやう、「此事にをきては、我ちから及ばぬ也。その故は、僧ありき。法花経を千部よみよみて、我に法楽せんとせしに、百餘部はよみたてまつりたりき。国のものども、たうとがりてこの僧に帰依しあひたりしを、汝むつかりてその僧を追はらひてき。それにこの僧、悪心をおこして『我、この国の守となりて、この答をせん』とてむまれきて、今、国司になりてければ、我力をよばず。その先生の僧を俊綱といひしに、この国司も俊綱といふなり」と、夢におほせありけり。 | + | それに、この国の司下りて、国の沙汰どもあるに、大宮司、「われは」と思ひて居たるを、国司とがめて、「いかに大宮司ならんからに、国にはらまれては、見参にも参らぬぞ」と言ふに、「前々(さきざき)さることなし」とて居たりければ、国司、むつかりて、「国司も国司にこそよれ。われに会ひては、かうは言ふぞ」とて、いやみ思ひて、「知らん所ども、点ぜよ」など言ふ時に、人ありて、大宮司に言ふ。「まことにも、国司と申すに、かかる人おはす。見参に参らせ給へ」と言ひければ、「さらば」と言ひて、衣冠に衣(きぬ)出だして、供の者ども三十人ばかり具して、国司のがり向ひぬ。 |
+ | |||
+ | 国司、出会ひ、対面して、人どもを呼びて、「きやつ、たしかに召しこめて、勘当せよ。神官といはんからに、国中にはらまれて、いかに奇怪をばいたす」とて、召し立てて、結ふほどに、こめて勘当す。 | ||
+ | |||
+ | その時、大宮司、「心憂きことに候ふ。御神はおはしまさぬか。下臈の無礼をいたすだに、たちどころに罰せさせおはしますに、大宮司をかくせさせて御覧ずるは」と、泣く泣くくどきて、まどろみたる夢に、熱田の仰せらるるやう、「このことにおきては、われ、力及ばぬなり。そのゆゑは、僧ありき。法華経を千部読みて、われに法楽せんとせしに、百余部は読み奉りたりき。国のものども、貴がりて、この僧に帰依しあひたりしを、なんぢ、むつかしがりて、その僧を追ひ払ひてき。それに、この僧、悪心をおこして『われ、この国の守となりて、この答をせん』とて生まれ来て、今、国司になりてければ、われ、力及ばず。その先生の僧を俊綱といひしに、この国司も俊綱といふなり」と、夢におほせありけり。 | ||
人の悪心はよしなき事なりと。 | 人の悪心はよしなき事なりと。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 是も今はむかし伏見修理大夫は宇治殿の御子にておはすあまり | ||
+ | 公達おほくおはしけれはやうをかへて橘俊遠といふ人の子になし/51オy105 | ||
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+ | 申て蔵人になして十五にて尾張守になし給てけりそれに | ||
+ | 尾張にくたりて国おこなひけるにその比熱田神いちはやく | ||
+ | おはしましてをのつから笠をもぬかす馬のはなをむけ無礼 | ||
+ | をいたすものをやかてたち所に罰せませおはしましけれは大 | ||
+ | 宮司の威勢国司にもまさりて国の者共おちおそれたりけり | ||
+ | それにこの国の司くたりて国のさたともあるに大宮司われはと思てゐ | ||
+ | たるを国司とかめていかに大宮司ならんからに国にはらまれては | ||
+ | 見参にもまいらぬそといふにさきさきさる事なしとてゐたりけれ | ||
+ | は国司むつかりて国司も国司にこそよれ我にあひてはかうはいふ | ||
+ | そとていやみ思てしらん所とも点せよなといふ時に人ありて大 | ||
+ | 宮司にいふまことにも国司と申すにかかる人おはす見参にまいらせ給 | ||
+ | へといひけれはさらはといひて衣冠にきぬいたしてともの物とも丗 | ||
+ | 人はかりくして国司のかりむかひぬ国司出あひ対面して人とも/51ウy106 | ||
+ | |||
+ | をよひてきやつたしかにめしこめて勘当せよ神官といはんからに | ||
+ | 国中にはらまれていかに奇怪をはいたすとてめしたててゆふ程にこ | ||
+ | めて勘当すその時大宮司心うき事に候御神はおはしまさぬか下 | ||
+ | 臈の無礼をいたすたに立所に罰せさせおはしますに大宮司を | ||
+ | かくせさせて御らんするはとなくなくくときてまとろみたる夢に | ||
+ | あつたの仰らるるやう此事にをきては我ちから及はぬ也その故は | ||
+ | 僧ありき法花経を千部よみて我に法楽せんとせしに百餘 | ||
+ | 部はよみたてまつりたりき国のものともたうとかりてこの僧に | ||
+ | 帰依しあひたりしを汝むつかしかりてその僧を追はらひてき | ||
+ | それにこの僧悪心をおこして我この国の守となりてこの答を | ||
+ | せんとてむまれきて今国司になりてけれは我力をよはすその | ||
+ | 先生の僧を俊綱といひしにこの国司も俊綱といふなりと | ||
+ | 夢におほせありけり人の悪心はよしなき事なりと/52オy107 | ||
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text/yomeiuji/uji046.1411879376.txt.gz · 最終更新: 2014/09/28 13:42 by Satoshi Nakagawa