text:yomeiuji:uji030
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text:yomeiuji:uji030 [2015/01/31 14:46] – [第30話(巻2・第12話)唐、卒都婆に血付く事] Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji030 [2015/01/31 14:46] – [翻刻] Satoshi Nakagawa | ||
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かくてこの山みなくづれて、ふかき海と成にければ、これをあざけり笑し物どもは、皆死けり。あさましき事なりかし。 | かくてこの山みなくづれて、ふかき海と成にければ、これをあざけり笑し物どもは、皆死けり。あさましき事なりかし。 | ||
- | ===== 翻刻 ===== | ||
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- | むかしもろこしに大なる山ありけりその山のいたたきに大きなる卒塔婆 | ||
- | 一たてりけりそのやまの麓の里に年八十斗なる女住けるか日に | ||
- | 一度その山のみねにある卒塔婆をかならす見けりたかく大なる山な | ||
- | れは麓よりみねへのほるほとさかしくはけしく道遠かりけ | ||
- | るを雨ふり雪ふり風ふき雷なりしみ氷たるにも又あつくく | ||
- | るしき夏も一日もかかさすかならすのほりて此卒塔婆を見けり/37ウy78 | ||
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- | かくするを人えしらさりけるに若き男とも童部の夏あつかりける比 | ||
- | 峰にのほりて卒塔婆のもとに居つつすすみけるに此女あせをのこ | ||
- | ひて腰ふたへなる者の杖にすかりてそとはのもとにきてそとはをめくりけれは | ||
- | おかみたてまつるかとみれはそとはをうちめくりては則帰帰する事一度 | ||
- | にもあらすあまたたひ此すすむ男ともにみえけり此女は何の心ありて | ||
- | かくはくるしきにするにかとあやしかりてけふみえは此事をとはんといひ | ||
- | 合ける程に常の事なれは此女はうはうのほりけり男とも女にいふやうわ | ||
- | 女は何の心によりて我らかすすみにくるたにあつくくるしく大事なる道を | ||
- | すすまんとおもふによりてのほりくるにこそあれすすむ事もなし | ||
- | 別にする事もなくてそとはをみめくるを事にて日々にのほりおるるこそ | ||
- | あやしき女のしわさなれ此ゆへしらせ給へといひけれは此女わかきぬしたち | ||
- | はけにあやしと思ひ給らんかくまうてきて此そとはみる事は此比の事に | ||
- | しも侍らす物の心しりはしめてより後此七十余年日ことにかくのほりてそとはを/38オy79 | ||
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- | 見たてまつる也といへはその事のあやしく侍なりそのゆへをのたまへととへは | ||
- | をのれか親は百廿にてなんうせ侍にし祖父は百卅斗にてそうせ給へ | ||
- | りしそれか又父祖父なとは二百余斗まてそいきて侍けるその人々の | ||
- | いひをかれたりけるとて此卒塔婆に血のつかんおりになん此山はくつれてふ | ||
- | かき海となるへきとなん父の申をかれしかは麓に侍る身なれは山崩なは | ||
- | うちおほはれて死もそすると思へはもし血つかは逃けてのかんとてかく日毎 | ||
- | に見侍なりといへは此きく男ともおこかりあさけりておそろしき事哉崩ん | ||
- | 時は告給へなと笑けるをも我をあさけりていふとも心えすしてさら也 | ||
- | いかてかは我独逃かんと思て告申ささるへきといひて帰くたりにけり此男 | ||
- | とも此女はけふはよもこしあす又きてみんにおとしてはしらせてわらはん | ||
- | といひ合て血をあやして卒塔婆によくぬりつけて此男共帰おりて | ||
- | 里の物ともに此麓なる女の日ことに峰にのほりてそとはみるをあやし | ||
- | さにとへはしかしかなんいへはあすおとしてはしらせんとてそとはに血を塗つる也/38ウy80 | ||
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- | さそくつるらんものやなといひ笑を里の物ともきき伝ておこなる | ||
- | 事のためしにひき笑けりかくて又の日女のほりてみるにそとはに血のお | ||
- | ほらかに付たりけれは女うちみるままに色をたかへてたうれまろひはしり | ||
- | 帰てさけひいふやう此里の人々とくにけのきて命いきよ此山はたた | ||
- | 今崩てふかき海となりなんとすとあまねく告まはして家に行て | ||
- | 子孫共に家の具足ともおほせもたせてをのれも持て手まとひして | ||
- | 里うつりしぬ是をみて血つけし男とも手を打て笑なとする程 | ||
- | にその事ともなくささめきののしりあひたり風のふきくるか雷のなる | ||
- | かとあやしむ程に空もつつやみに成てあさましくおそろしけにて此山 | ||
- | ゆるきたちにけりこはいかにこはいかにとののしりあひたる程にたたくつれに崩もて | ||
- | ゆけは女はまことしける物をなといひてにけにけえたる物もあれとも親の | ||
- | ゆくゑもしらす子をもうしなひ家の物の具もしらすなとしておめ | ||
- | きさけひあひたり此女ひとりそ子まこも引くして家の物の具一もうし/39オy81 | ||
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- | なはすしてかねて逃のきてしつかにゐたりけるかくてこの山み | ||
- | なくつれてふかき海と成にけれはこれをあさけり笑し | ||
- | 物ともは皆死けりあさましき事なりかし/39ウy82 | ||
text/yomeiuji/uji030.txt · 最終更新: 2017/12/21 00:01 by Satoshi Nakagawa