text:yomeiuji:uji025
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text:yomeiuji:uji025 [2014/09/27 18:08] – Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji025 [2015/01/30 23:32] – Satoshi Nakagawa | ||
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**鼻長き僧の事** | **鼻長き僧の事** | ||
- | 昔、池の尾に禅珍内供といふ僧住ける。真言なんどよく習て、年久く行いて貴とかりければ、世の人々、さまざまの祈をせさせければ、身徳ゆたかにて、堂も僧坊も、すこしもあれたる所なし。仏供御燈などもたえず、おりふしの僧膳、寺の講演しげく行はせければ、寺中の僧坊にひまなく僧もすみにぎはひけり。湯屋にはゆわかさぬ日なく、あみののしりけり。又、そのあたりに小家どもおほくいできて、里もにぎはひけり。 | + | 昔、池の尾に禅珍内供といふ僧住ける。真言なんどよく習て、年久く行いて貴とかりければ、世の人々、さまざまの祈をせさせければ、身の徳ゆたかにて、堂も僧坊も、すこしもあれたる所なし。仏供御燈などもたえず、おりふしの僧膳、寺の講演しげく行はせければ、寺中の僧坊にひまなく僧もすみにぎはひけり。湯屋にはゆわかさぬ日なく、あみののしりけり。又、そのあたりに小家どもおほくいできて、里もにぎはひけり。 |
さて、この内供は鼻長かりけり。五六寸斗なりければ、おとがひよりさがりてぞみえける。色は赤紫にて、大柑子のはだのやうにつぶだちて、ふくれたり。かゆがる事かぎりなし。 | さて、この内供は鼻長かりけり。五六寸斗なりければ、おとがひよりさがりてぞみえける。色は赤紫にて、大柑子のはだのやうにつぶだちて、ふくれたり。かゆがる事かぎりなし。 | ||
行 16: | 行 16: | ||
それに心ちあしくて、この法師いでざりけるおりに、朝がゆくはんとするに、鼻をもてあぐる人なかりければ「いかにせんなむ」といふ程に、つかひける童の「我はよくもてあげまいらせてん。更に、その御房にはよもをおとらじ」といふを、弟子の法師ききて、「この童のかく申」といへば、中大童子にて、みめもきたなげなくありければ、うへにめしあげてありけるに、この童鼻もてあげの木を取て、うるはしくむかひゐて、よき程に高からず、ひきからず、もたげて粥をすすらすれば、此内供「いみじき上手にてありけり。例の法師にはまさりたり」とてかゆをすする程に、この童はなをひんとて、そばざまに向てはなをひる程に、手ふるひて、鼻もたげの木ゆるぎて、鼻はづれて粥の中へ、鼻ふたりとうちいれつ。内供が顔にも童のかほにも粥とばしりて、ひと物かかりぬ。 | それに心ちあしくて、この法師いでざりけるおりに、朝がゆくはんとするに、鼻をもてあぐる人なかりければ「いかにせんなむ」といふ程に、つかひける童の「我はよくもてあげまいらせてん。更に、その御房にはよもをおとらじ」といふを、弟子の法師ききて、「この童のかく申」といへば、中大童子にて、みめもきたなげなくありければ、うへにめしあげてありけるに、この童鼻もてあげの木を取て、うるはしくむかひゐて、よき程に高からず、ひきからず、もたげて粥をすすらすれば、此内供「いみじき上手にてありけり。例の法師にはまさりたり」とてかゆをすする程に、この童はなをひんとて、そばざまに向てはなをひる程に、手ふるひて、鼻もたげの木ゆるぎて、鼻はづれて粥の中へ、鼻ふたりとうちいれつ。内供が顔にも童のかほにも粥とばしりて、ひと物かかりぬ。 | ||
- | 内供、大に腹立て頭かほにかかりたる粥を紙にてのごひつつ、「をのれはまがまがしかりける心もちたる物哉。心なしのかたひとはをのれがやうなる物をいふぞかし。我ならぬ、やごつなき人の御鼻にもこそまいれ。それにかくやせんずる。うたてなりける心なしのしれものかな。をのれ、たてたて」とて、追たてたりければ、たつままに「世の人のかかる鼻もちたるがおはしもさばこそははなもたげにもまいらめ。おこの事の給へる御房かな」といひければ、弟子どもはもののうしろに逃のきてぞわらひける。 | + | 内供、大に腹立て頭かほにかかりたる粥を紙にてのごひつつ、「をのれはまがまがしかりける心もちたる物哉。心なしのかたひとはをのれがやうなる物をいふぞかし。我ならぬ、やごつなき人の御鼻にもこそまいれ。それにかくやせんずる。うたてなりける心なしのしれものかな。をのれ、たてたて」とて、追たてければ、たつままに「世の人のかかる鼻もちたるがおはしもさばこそははなもたげにもまいらめ。おこの事の給へる御房かな」といひければ、弟子どもはもののうしろに逃のきてぞわらひける。 |
text/yomeiuji/uji025.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:59 by Satoshi Nakagawa