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text:yomeiuji:uji017 [2014/09/27 17:20] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji017 [2017/12/20 23:56] (現在) – [第17話(巻1・第17話)修行者、百鬼夜行に逢ふ事] Satoshi Nakagawa
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 **修行者、百鬼夜行に逢ふ事** **修行者、百鬼夜行に逢ふ事**
  
-今は昔、修行者の有けるが、津国までいきたりけるに、日暮てりうせん寺とて、大きなる寺のふりたるが、人もなき有けり。「これは人やどらぬ所といへども、其あたりに又やどるべき所もなかりければ、如何せん」と、思て負打おろして内に入てゐたり。+===== 校訂本文 =====
  
-不動呪をとなへてゐたに「夜中斗にや成ぬらん」と思程に人人声、あまたしてくをとす。みば手ごとに火をともして、人百人斗此堂の内にきつどひた。近くみれば目一つつたりなど様々なりもあらず、あさましき物どもなりけり。角おひたり。頭もえもはずおそろしげなる物ども也。「おそろし」と思へども、べきもなくてゐたれば、をのをのみなゐぬ+今は昔、修行者ありけで行きりけに、日暮れて、りうせん寺とて、きなる寺の古(ふ)たるが、人もなきありけり。これ人宿らぬ所といへども、そのあたりに、また宿るべきもなかりければ、「いかがせん」と思ひて、負ひうちおろして、内に入りて居たり
  
-ひとりぞ、ま所もなくてえゐずして火を打ふて我をつらつらとみていやう「我ゐるべき座に、あたき不動尊こそゐ給た。今夜斗は外におはせ」とて手して我を引さげて、堂のすへつ。+不動の呪を唱へて居るに「夜中ばかにやなりぬん」ほど、人々の声、あたして来る音す。見、手ごとに火を灯して、人、百人ばかり、この堂の来集(きど)ひたり
  
-さる程に暁になりぬとて、此人々ののして帰ぬ「実にあさましく、おそろしかりける所かな。とく夜の明よかし。いな」とふにから夜明+近く見れば目一つ付きたりなど様々なり。もあらず、あさましき物どもなりけり。あいは角生ひたり頭もえもはず恐しげる物どもなり。「恐ろし」と思へどもすべきやもなくれば、をのをの、みな居ぬ
  
-うちみはしれば、ありし寺もなし。はるばるある野の来しかたもみえず。人のみ分た道もみえず。行べきもなければ「あさまし」と思ひゐたる程にまれまれ馬に乗たる人どもの人あまたぐしてたり+一人ぞ、またもなくて、え居ずて、火をうち振りて、われをつらつら見て言やう、「わが居るべき座に、新しき不動尊こそ居給ひたれ。今夜かりは、外におはせ」とて、片手して、われを引下げて、堂の軒の下に据ゑつ
  
-いとうれしくて「ここはいづくとか申」と、とへば「などかくは問給ぞ。肥前国ぞかし」と、いへば「あさましきわざ」と思て、事のやうくはしくいゑば、この馬なる人もいとけうの事かな肥前国にとりても是はおくの郡なり是はみたちへまいるなりいへば、修行者悦て道も知候はぬにさら道迄もまいらんいひていきければ、「是より京へ行き道ど、をしへければ、ふねたねて京へのりにけり+さるほどに、「暁になりぬ」とて、この人々、ののしりて帰りぬ。「まことにあさましく、恐ろしかりける所かな。とく夜の明けよかし。往なん」と思ふに、からうじて夜明けたり。 
 + 
 +うち見回したれば、ありし寺もなし、はるばるとある野の、来し方も見えず。人の踏み分けたる道も見えず。行くべき方もなければ、「あさまし」と思ひて居たるほどに、まれまれ馬に乗りたる人どもの、人、あまた具して出で来たり。 
 + 
 +いとうれしくて「ここはいづくとか申」とへば「などかくは問ぞ。肥前国ぞかし」とへば「あさましきわざかな」と思て、ことのやう、詳しく言へば、この馬なる人も、「いと希有のことかな。肥前国にとりても、これは奥の郡なり。これは御館(みたち)へ参るなり」と言へば、修行者、喜びて「道も知り候はぬに、さらば、道までも参らん」と言ひて行きければ、これより京へ行くべき道など教へければ、船尋ねて、京へ上りにけり。 
 + 
 +さて、人どもに、「かかるあさましきことこそありしか。津の国のりうせん寺といふ寺に宿りたりしを、鬼どもの来て、『所せばし』とて、『あたらしき不動尊、しばし雨だりにもおはしませ』と言ひて、かき抱(いだ)きて、雨だりについ据ゆと思ひしに、肥前国の奥の郡にこそ居たりしか。かかる、あさましきことにこそ、あひたりしか」とぞ、京に来て語りけるとぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔修行者の有けるか津国まていきたりけるに日暮てりうせん寺 
 +  とて大なる寺のふりたるか人もなき有けりこれは人やとらぬ所といへとも 
 +  其あたりに又やとるへき所もなかりけれは如何せんと思て負打おろして内に 
 +  入てゐたり不動の呪をとなへてゐたるに夜中斗にや成ぬらんと思程に人々/18オy39 
 + 
 +  の声あまたしてくるをとすみれは手ことに火をともして人百人斗 
 +  此堂の内にきつとひたり近くてみれは目一つつきたりなと様々なり人 
 +  にもあらすあさましき物ともなりけり或は角おひたり頭もえもいはす 
 +  おそろしけなる物とも也おそろしと思へともすへき様もなくてゐたれは 
 +  をのをのみなゐぬひとりそまた所もなくてえゐすして火を打ふりて 
 +  我をつらつらとみていふやう我ゐるへき座にあたらしき不動尊こそゐ給 
 +  たれ今夜斗は外におはせとて片手して我を引さけて堂の軒の下にすへ 
 +  つさる程に暁になりぬとて此人々ののしりて帰ぬ実にあさましくおそろし 
 +  かりける所かなとく夜の明よかしいなんと思ふにからうして夜明たりうち 
 +  みまはしたれはありし寺もなしはるはるとある野の来しかたもみえす人の 
 +  ふみ分たる道もみえす行へきかたもなけれはあさましと思ひてゐたる 
 +  程にまれまれ馬に乗たる人ともの人あまたくして出きたりいとうれ 
 +  しくてここはいつくとか申ととへはなとかくは問給そ肥前国そかしとい/18ウy40 
 + 
 +  へはあさましきわさ哉と思て事のやうくはしくいゑこの馬なる人もい 
 +  とけうの事かな肥前国にとりても是はおくの郡なり是はみたち 
 +  へまいるなりといへ修行者悦て道も知候はぬにさら道迄もまいらん 
 +  といひていきけれ是より京へ行き道なをしへけれふねた 
 +  て京へのりにけりさて人ともにかかるあさましき事こそありしか津 
 +  の国のりうせん寺といふてらにやとりたりしを鬼とものきて所せはし 
 +  とてあたらしき不動尊しはし雨たりにもおはしませといひてかきいたき 
 +  て雨たりについすゆと思しに肥前国奥の郡にこそゐたりしかかかる 
 +  浅猿き事にこそあひたりしかとそ京にきて語けるとそ/19オy41
  
-さて人どもに「かかるあさましき事こそありしか。津の国のりうせん寺といふてらにやどりたりしを、鬼どものきて、『所せばし』とて『あたらしき不動尊、しばし雨だりにもおはしませ』といひて、かきいだきて雨だりについすゆと思しに、肥前国奥の郡にこそゐたりし。かかる浅猿き事にこそあひたりしか」とぞ、京にきて語けるとぞ。 
text/yomeiuji/uji017.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:56 by Satoshi Nakagawa