ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:yomeiuji:uji016

差分

このページの2つのバージョン間の差分を表示します。

この比較画面へのリンク

両方とも前のリビジョン前のリビジョン
次のリビジョン両方とも次のリビジョン
text:yomeiuji:uji016 [2015/01/26 02:06] – [第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji016 [2017/10/25 20:29] Satoshi Nakagawa
行 6: 行 6:
 **尼、地蔵見奉る事** **尼、地蔵見奉る事**
  
-今は昔、丹後国に老尼ありけり。+今は昔、丹後国に老尼ありけり。「地蔵菩薩は暁ごとに歩(あり)き給ふ」といふことを、ほのかに聞きて、暁ごとに、「地蔵見奉らん」とて、ひと世界をまどひ歩くに、博打(ばくち)の、うち呆(ほう)けて居たるが見て、「尼君は寒きに、なにわざし給ふぞ」と言へば、「地蔵菩薩の、暁に歩き給ふなるに、会ひ参らせんとて、かく歩くなり」と言へば、「地蔵の歩かせ給ふ道は、われこそ知りたれ。いざ給へ。会はせ参らせん」と言へば、「あはれ、嬉しきことかな。地蔵の歩かせ給はん所へ、われを率(ゐ)ておはせよ」と言へば、「われに物を得させ給へ。やがて率て奉らん」と言ひければ、「この着たる衣、奉らん」と言へば、「さは、いざ給へ」とて、隣なる所へ率ていく
  
-「地蔵菩薩は暁ごとありき給」といふ事をほききて暁ごとに「地蔵見たてまつらん」ひと世界まどひあくに、博打のうちほうてゐたがみて、「尼君、さむきに、なにわざし給ぞ」といへば、「地蔵菩薩の暁ありるにあひまひらせとて、かくありく也」とへば、「地蔵のあるかせ給ふ道は、そしたれ。いざ給へ。あはせまいらせん」といへば、「あはれ、うれしき事哉。地蔵のありかせ給へ、我をいておせよ」とへば、「我に物をえさせ給へ。やがいてたてまらん」といひければ、「此たる衣たまつん」といへば、「さ、いざ給へ」と、隣なる所へいいく+尼、よろこびて、急ぎ行く、そこに、地蔵といふ童ありけるをそれが親知りたりけるによりて、「地蔵は」と問ひければ、遊び往ぬ。今、来()なん」とへば、「は、ここなり。地蔵のします所は」とへば、尼、嬉しくむぎの衣(ぬ)を脱ぎすれば、博打急ぎ取り去ぬ
  
-悦びていそぎ行に、そこの子に地蔵といふ童有けるをそれがおやをしりたりけるによりて、「地蔵は」ととひければ、おやあそびにいぬ。いまきなん」といへば、「くは、ここなり。地蔵のおはします所は」とへば、尼うれつむぎのきぬをぬぎとらすればばくちはいそぎとていぬ+地蔵、見参らせん」とて居たれば、親どもは心も得ず、「など、『この童を見ん』と思ふらん」と思ふほどに、十かりなる童の来たるを、「くは、地蔵」とへば、尼、見るままに、是非も知らず、伏まろび、拝み入りて、土にうつぶしたり。
  
-地蔵みいらせんとてゐればおやども心もえず「など『こわらはみん』と思らん」と思程に十ばかなる童たるを「くは、地蔵」と、いへば、尼、みるままに是非もしらず、ふしまろびておおがみ入て、土にうつふしたり+童、ずゑを持ちて、遊びけるまに来りけるがそのずゑして手すさみやうに額掻けば額よ上まで裂けぬ。裂けたるえもめでたき地蔵の御顔見え給ふ。
  
-ずはへを持あそびけるままに来りけるがそのずはへして、手すさの様に額をかけば額よかほのうへまでさぬ。さけたる中よ、えもいはずめでたき地蔵の御顔みえ給+拝み入り、うち見上げればかくて立ち給れば、涙を流して、入り参らせてやがて極楽へ参けり。
  
-尼、おがみ入て、うちみあげたれば、て立給へれば、涙をて、おがみ入まいらせて、やがて極楽へ参にけり+れば、心にだにも深念じつれば、仏も見え給ふりけると信ずべし。
  
-されば、心ににも深念しつれば、仏もみえ給なりけると信ずべ+===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  今は昔丹後国に老尼ありけり地蔵菩薩は暁ことにありき給と 
 +  いふ事をほのかにききて暁ことに地蔵見たてまつらんとてひと世 
 +  界をまとひありくに博打のうちほうけてゐたるかみて尼君はさ 
 +  むきになにわさし給そといへは地蔵菩薩の暁にありき給なるに 
 +  あひまひらせんとてかくありく也といへは地蔵のありかせ給ふ 
 +  道は我こそしりたれいさ給へあはせまいらせんといへはあはれう 
 +  れしき事哉地蔵のありかせ給はん所へ我をいておはせよといへは 
 +  我に物をえさせ給へやかていてたてまつらんといひけれは此 
 +  きたる衣たてまつらんといへはさはいさ給へとて隣なる所へい 
 +  ていく尼悦ていそき行にそこの子に地蔵といふ童有ける 
 +  をそれかおやをしりたりけるによりて地蔵はととひけれは 
 +  おやあそひにいぬいまきなんといへはくはここなり地蔵の 
 +  おはします所はといへは尼うれしくてつむきのきぬをぬきてとら/17ウy38 
 + 
 +  すれははくちはいそきてとりていぬ尼は地蔵みまいらせんとて 
 +  ゐたれはおやともは心もえすなとこのわらはをみんと思らんと思程に 
 +  十はかりなる童のきたるをくは地蔵よといへは尼みるままに是非もしら 
 +  すふしまろひておかみ入て土にうつふしたり童すはへを持てあそひけるままに 
 +  来たりけるかそのすはへして手すさみの様に額をかけは額よりかほのうへ 
 +  まてさけぬさけたる中よりえもいはすめてたき地蔵の御顔みえ給 
 +  尼おかみ入てうちみあけたれはかくて立給へれは涙をなかしておかみ入ま 
 +  いらせてやかて極楽へ参にけりされ心ににも深念しつれ仏もみえ 
 +  給なりけると信すへ/18オy39
  
text/yomeiuji/uji016.txt · 最終更新: 2019/12/04 11:28 by Satoshi Nakagawa