text:yomeiuji:uji016
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text:yomeiuji:uji016 [2014/04/07 20:55] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:yomeiuji:uji016 [2015/01/26 02:06] – [第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事] Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 宇治拾遺物語 | ||
====== 第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事 ====== | ====== 第16話(巻1・第16話)尼、地蔵見奉る事 ====== | ||
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今は昔、丹後国に老尼ありけり。 | 今は昔、丹後国に老尼ありけり。 | ||
- | 「地蔵菩薩は暁ごとにありき給」といふ事をほのかにききて、暁ごとに「地蔵見たてまつらん」とて、ひと世界をまどひありくに、博打のうちほうけてゐたるがみて、「尼君は、さむきに、なにわざし給ぞ」といへば、「地蔵菩薩の暁にありき給なるにあひまひらせんとて、かくありく也」といへば、「地蔵のあるかせ給ふ道は、我こそしりたれ。いざ給へ。あはせまいらせん」といへば、「あはれ、うれしき事哉。地蔵のありかせ給はん所へ、我をいておはせよ」といへば、「我に物をえさせ給へ。やがていてたてまつらん」といへば、「さは、いざ給へ」とて、隣なる所へいてゆく。 | + | 「地蔵菩薩は暁ごとにありき給」といふ事をほのかにききて、暁ごとに「地蔵見たてまつらん」とて、ひと世界をまどひありくに、博打のうちほうけてゐたるがみて、「尼君は、さむきに、なにわざし給ぞ」といへば、「地蔵菩薩の暁にありき給なるにあひまひらせんとて、かくありく也」といへば、「地蔵のあるかせ給ふ道は、我こそしりたれ。いざ給へ。あはせまいらせん」といへば、「あはれ、うれしき事哉。地蔵のありかせ給はん所へ、我をいておはせよ」といへば、「我に物をえさせ給へ。やがていてたてまつらん」といひければ、「此きたる衣たてまつらん」といへば、「さは、いざ給へ」とて、隣なる所へいていく。 |
- | 尼よろこびて、いそぎ行に、そこの子に地蔵といふ童有けるを、それがおやをしりたりけるによりて、「地蔵は」ととひければ、おや「あそびにいぬ。いまきなん」といへば、「くは、ここなり。地蔵のおはします所は」といへば、尼うれしくてつむぎのきぬをぬぎてとらすれば、ばくちはいそぎとりていぬ。 | + | 尼悦びて、いそぎ行に、そこの子に地蔵といふ童有けるを、それがおやをしりたりけるによりて、「地蔵は」ととひければ、おや「あそびにいぬ。いまきなん」といへば、「くは、ここなり。地蔵のおはします所は」といへば、尼うれしくてつむぎのきぬをぬぎてとらすれば、ばくちはいそぎとりていぬ。 |
尼は地蔵みまいらせんとてゐたれば、おやどもは心もえず「など、『このわらはをみん』と思らん」と思程に、十ばかりなる童のきたるを「くは、地蔵よ」と、いへば、尼、みるままに是非もしらず、ふしまろびておおがみ入て、土にうつふしたり。 | 尼は地蔵みまいらせんとてゐたれば、おやどもは心もえず「など、『このわらはをみん』と思らん」と思程に、十ばかりなる童のきたるを「くは、地蔵よ」と、いへば、尼、みるままに是非もしらず、ふしまろびておおがみ入て、土にうつふしたり。 | ||
- | 童、ずはへを持てあそびけるままに来りけるが、そのずはへして、手すさみの様に額をかけば、額よりかほのうへまでさけぬ。さけたる中より、えもいはずめでたき地蔵の御顔みえ給。 | + | 童、ずはへを持てあそびけるままに来たりけるが、そのずはへして、手すさみの様に額をかけば、額よりかほのうへまでさけぬ。さけたる中より、えもいはずめでたき地蔵の御顔みえ給。 |
尼、おがみ入て、うちみあげたれば、かくて立給へれば、涙をながして、おがみ入まいらせて、やがて極楽へ参にけり。 | 尼、おがみ入て、うちみあげたれば、かくて立給へれば、涙をながして、おがみ入まいらせて、やがて極楽へ参にけり。 | ||
されば、心にだにも深念しつれば、仏もみえ給なりけると信ずべし。 | されば、心にだにも深念しつれば、仏もみえ給なりけると信ずべし。 | ||
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text/yomeiuji/uji016.txt · 最終更新: 2019/12/04 11:28 by Satoshi Nakagawa