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text:yomeiuji:uji008 [2014/09/27 17:16] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji008 [2017/10/19 19:22] Satoshi Nakagawa
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 ====== 第8話(巻1・第8話)易の占して金を取出す事 ====== ====== 第8話(巻1・第8話)易の占して金を取出す事 ======
  
-**易ノ占金取出事**+**易ノ占シテ金取出事**
  
 **易の占して金を取出す事** **易の占して金を取出す事**
  
-旅人のやどもとめけるに、大きやかなる家のあばれたるがありけるによりて「ここにやどし給てんや」と、いへば、女こゑにて「よきやどり給へ」と、いへば、みなにけり。やおほきなれども、人ありげもなし。ただ女一人ぞあるけはいしける。+旅人の宿(やど)求めけるに、大きやかなる家のあばれたるがありけるによりて「ここに宿し給てんや」とへば、女にて「よきこと宿り給へ」とへば、みなにけり。屋、大きなれども、人ありげもなし。ただ女一人ぞある気配しける。
  
-かくて、夜けにければ、物くひしたためてでて行を、この家にある女て「えでおはせじとどまり給へ」と、いふ。「こはいかに」と、とへば、「おのれは金千両ひ給へり。そのわきまへしてこそ出給はめ」と、いへば、この旅人のずんざども、わらひて「あら、しや。ざんなんめり」と、いへば、此たび人「しばし」と、いひて、又おて皮子ひよせて、幕引めぐらして、しばしばかりありて、女をびければ出にけり。+かくて、夜けにければ、もの食ひしたためて、出でて行を、この家にある女、出「えでおはせじ。留(とど)まり給へ」とふ。「こはいかに」とへば、「おのれは金千両ひ給へり。そのわきまへしてこそ出給はめ」とへば、この旅人の従者(ずんざ)どもひて「あらや。讒(ざん)なんめり」とへば、この旅「しばし」とひて、また下皮子、乞ひよせて、幕めぐらして、しばしばかりありて、この女をびければで来にけり。
  
-旅人ふやうは、「この親は、もし易の占といふやせられ」と、とへば「いや侍けん。そのし給ふやうなるは、し給き」とへば「さるなり」と、いひて「さても、何事にて『千両金ひたる、そのわきまへせよ』とはふぞ」と、とへば、「のれがおやの失侍しおりに、世中にあるべきの物など、させきてまうししやう、いまなん十年ありて、その月にここに旅人来てやどらんとす。その人は、金を千両ひたる人なり。それにその金をひて、へがたからんおりは、りてぎよ』と申しかば、今までは親のさせて侍し物をすこしづつもつかひて、ことしとなりてはるべき物も侍らぬままに、『いつしか親のひし月日のとくこかし』と待侍つるに、けふにあたりておはして、やどり給へれば、『金ひ給へる人なり』と思て申」と、いへば「金のことはまことなり。さるもあるらん」とて、女をかたすみに引てきて、人にもらせで柱をたたかすれば、うつほなるこゑのする所を「くは、これが中にのたまふ金はあるぞ。けてすこしづつでてつかひ給へ」と、をしへて出てにけり。+旅人、問ふやうは、「この親は、もし易の占といふことやせられ」とへば「いや侍けん。そのし給ふやうなることは、し給き」とへば「さるなり」とひて「さても、何事にて『千両金ひたる、そのわきまへせよ』とはふぞ」とへば、「のれがの失侍りし折に、世中にあるべきほどの物など、させきてししやう、『今なん十年ありて、その月にここに旅人来て、宿らんとす。その人は、わが金を千両ひたる人なり。それにその金をひて、へがたからんは、りてぎよ』と申しかば、今までは親のさせて侍し物を、少しづつも使ひて、今年となりては、売るべき物も侍らぬままに、『いつしか、わが親のひし月日のとく来()かし』と待つるに、今日にあたりておはして宿り給へれば、『金ひ給へる人なり』と思て申すなり」とへば「金のことはまことなり。さることもあるらん」とて、女を片隅に引きて、人にもらせで柱をかすれば、うつほなる音(こゑ)のする所を「くは、これが中にのたまふ金はあるぞ。けてすこしづつでて使ひ給へ」とへて出にけり。
  
-此女のおやの易の占の上手にて此女のありさまを勘へけるにいま十年ま《づ》しくならんとすその月日やくの占する男きてやらんするかんへてかかる金あるとつてはまたきに取いつかひうしなひてはましくならん程につかう物なくてまひなん思ひてしかいひをしへて死ける後にもこの家をもうしなはしてけふを待つけてこの人をかくせめければ、これもゑきの占する物にて心をみてうらなひいしてをしへていていにけるなりけり+この女の親の、易の占の上手にて、この女のありさまを勘(かんが)へけるに、「いま十年ありて貧しくならんとす。その月日、易(やく)の占する男来て、宿らんずる」と勘へて、「『かかる金ある』と告げては、まだしきに取出でて、使ひ失ひては、貧しくならんほどに、使う物なくてまどひなん」と思ひて、しか言ひ教へて、死にける後にも、この家をも売り失なはずして、今日を待ちつけて、この人をかく責めければ、これも易(ゑき)の占する者にて、心を見て。占ひ出だして、教へて、出でて去にけるなりけり。 
 + 
 +易(ゑき)の卜は、行く末を掌の中のやうにさして、知ることにてありけるなり。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  旅人のやともとめけるに大きやかなる家のあはれたるかありけるに 
 +  よりてここにやとし給てんやといへは女こゑにてよき事やとり給へ 
 +  といへはみなおりゐにけりやおほきなれとも人ありけもなしたた女 
 +  一人そあるけはいしけるかくて夜あけにけれは物くひしたためて 
 +  いてて行をこの家にある女いてきてえいておはせしととまり 
 +  給へといふこはいかにととへはおのれは金千両をひ給へりその 
 +  わきまへしてこそ出給はめといへはこの旅人のすんさともわらひて 
 +  あらしやさんなんめりといへは此たひ人しはしといひて又おりゐて 
 +  皮子こひよせて幕引めくらしてしはしはかりありて此女をよひけれは 
 +  出きにけり旅人とふやうはこの親はもし易の占といふ事やせ 
 +  られしととへはいさや侍けんそのし給ふやうなる事はし給きと 
 +  いへはさるなりといひてさても何事にて千両金をひたるその/12ウy28 
 + 
 +  わきまへせよとはいふそととへはをのれかおやの失侍しおりに世中 
 +  にあるへき程の物なとえさせをきてまうししやういまなん 
 +  十年ありてその月にここに旅人来てやとらんとすその人は我 
 +  金を千両をひたる人なりそれにその金をこひてたへかた 
 +  からんおりはうりてすきよと申しかは今まては親のえさせて侍し 
 +  物をすこしつつもうりつかひてことしとなりてはうるへき物も侍ら 
 +  ぬままにいつしか我親のいひし月日のとくこかしと待侍つるにけふ 
 +  にあたりておはしてやとり給へれは金をひ給へる人なりと思て申也 
 +  といへは金の事はまことなりさる事もあるらんとて女をかたすみ 
 +  に引てゆきて人にもしらせて柱をたたかすれはうつほなるこゑの 
 +  する所をくはこれか中にのたまふ金はあるそあけてすこしつつ 
 +  とりいててつかひ給へとをしへて出ていにけり此女のおやの易の 
 +  占の上手にて此女のありさまを勘へけるにいま十年ありて/13オy29 
 + 
 +  くならんとすその月日やくの占する男きてやらんすると 
 +  かんへてかかる金あるとつてはまたきに取いてつかひうしなひ 
 +  てはましくならん程につかう物なくてまひなんと思ひてしかいひを 
 +  しへて死ける後にもこの家をもうりうしなはしてけふを待つけ 
 +  てこの人をかくせめけれこれもゑきの占する物にて心をみてうら 
 +  なひいしてをしへていていにけるなりけりゑきの卜は行すゑ 
 +  を掌の中のやうにさしてしる事にてありける也/13ウy30
  
-ゑきの卜は、行すゑを掌の中のやうにさしてしる事にてありける也。 
text/yomeiuji/uji008.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:47 by Satoshi Nakagawa