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text:yomeiuji:uji002 [2015/01/08 21:27] – [第2話(巻1・第2話)丹波国篠村、平茸生ふる事] Satoshi Nakagawatext:yomeiuji:uji002 [2017/12/20 23:44] (現在) – [第2話(巻1・第2話)丹波国篠村、平茸生ふる事] Satoshi Nakagawa
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 **丹波国篠村、平茸生ふる事** **丹波国篠村、平茸生ふる事**
  
-これもいまはむかし、丹波国篠村といふ所に、年比平茸やるかたもなくおほかりけり。+===== 校訂本文 =====
  
-里村の者、これをとりて、人に心さし又我もくひなどして、年来過る程に、その里にりてむねとあるものの夢に、かしらおつかみなる法師どもの二三十人斗できて「申べき事候」と、いひければ「いかなる人ぞ」と、とふに「此法師原はこの比候て宮つかひよくして候ひつが、この里の縁つきて、いまはよそへまりなんずる事の、かつはあはれに候、又、事のよしを申さでは、と思ひて、比よしを申り」といふとみて、うちおどろきて「こは何事ぞ」と、妻や子やなどに[龍かたる]程に、又、その里の人の夢にも「この定にみえた」とて、あまた同様にかたれば、心もえで、年もくれぬ+これも今は昔丹波国篠村といふに、年ごろ平茸やるかもなく多かりり。
  
-のとしの九十月にもぬるに、さきるほどなれば、山に入りて茸を求むるほどに、すべて蔬おほかたえず。「いかなるにか」と、里国の者、思ひてぐるに、故仲胤僧都とて、説法ならびなき人いましけり。此事きて「こはいかに。『不浄説法する法師、平茸にまる』といふ事のある物をとの給てけり+里村の者、これを取り、人にも心ざし、また、われも食ひなどして、年ごろ過ぐるほどに、そ里にりてむねとあるものの夢に、頭おつかみなる法師どもの、二・三十人ばかり出できて、「申すべきこと候ふ」と言ひければ、「いかなる人ぞ」と問ふに、「この法師ばらは、この年ごろ候ひて、宮仕ひよくて候ひつるが、この里の縁尽きて、いまはよそへまかりなんずることの、かつはあはれにも候ふ。また、『ことのよしを申さでは』と思ひて、このよしを申すなり」と言ふと見て、うちおどろきて、「こは何事ぞ」と、妻や子やなどに語るほどに、また、その里の人の夢にも「この定(ぢやう)に見えたり」とて、あまた同様に語れば、心も得で、年も暮れぬ。 
 + 
 +さて、次の年の九十月にもなりぬるに、前々(さき)出るほどなれば、山に入りて茸を求むるほどに、すべて(くさびら)おほかたえず。「いかなることにか」と、里国の者、思ひてぐるほどに、故仲胤僧都とて、説法びなき人いましけり。このこときて「こはいかに。『不浄説法する法師、平茸にまる』といふことのあるものを」とのたまひてけり。 
 + 
 +されば、いかにもいかにも、平茸は食はざらんに欠くまじきもなり、とぞ。 
 + 
 +===== 翻刻 ===== 
 + 
 +  これもいまはむかし丹波国篠村といふ所に年比平茸やる 
 +  かたもなくおほかりけり里村の者これをとりて人にも心 
 +  さし又我もくひなとして年来過る程にその里にとり 
 +  てむねとあるものの夢にかしらおつかみなる法師ともの二三 
 +  十人斗いてきて申へき事候と、いひけれはいかなる人そととふに 
 +  此法師原はこの年比候て宮つかひよくして候ひつるかこの里の 
 +  縁つきていまはよそへまかりなんする事のかつはあはれに 
 +  も候又事のよしを申さてはと思ひて比よしを申なりといふとみて 
 +  うちおとろきてこは何事そと妻や子やなとにかたり程に又その/上6オy15 
 + 
 +  里の人の夢にもこの定にみえたりとてあまた同様にかたれは 
 +  心もえて年もくれぬさて次のとしの九十月にも成ぬるにさき 
 +  さきいてくるほとなれは山に入て茸を求むるほとにすへて蔬おほ 
 +  かたみえすいかなる事にかと里国の者思ひてすくる程に故仲 
 +  胤僧都とて説法ならひなき人いましけり此事をききて 
 +  こはいかに不浄説法する法師平茸にむまるといふ事のある 
 +  物をとの給てけりされはいかにもいかにも平茸はくはさらんに事 
 +  かくましき物なりとそ/上6ウy16
  
-されば、いかにもいかにも、平茸はくはざらんに事かくまじき物なり、とぞ。 
text/yomeiuji/uji002.txt · 最終更新: 2017/12/20 23:44 by Satoshi Nakagawa