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text:kohon:kohon008 [2014/05/09 16:02] – 作成 Satoshi Nakagawatext:kohon:kohon008 [2016/01/20 15:52] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 +古本説話集
 ====== 第8話 御荒の宣旨、歌の事 ====== ====== 第8話 御荒の宣旨、歌の事 ======
  
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
 +今は昔、御荒(みあれ)の宣旨といふ人は、優にやさしく、かたちもめでたかりけり。皇太后宮((藤原妍子))の女房なり。中納言定頼((藤原定頼))、文おこせ給ふ。
 +
 +  昼は蝉夜は蛍に身をなして鳴き暮らしては燃えや明かさん
 +
 +さやうにて通ひ給ふほどに、心少し変はり、絶え間がちなり。
 +
 +はるばると野中に見ゆる忘れ水絶え間絶え間を嘆くころかな
 +
 +中納言、見目よりはじめ、何事にも優れてめでたくおはするを、心ある人は見知りて、嘆かし秋の夕暮れ、きりぎりすいたく鳴きけるを、「長き思ひは」など、ながめ給ひけるを、忘れがたき事に言ひためり。
 +
 +絶え給ひて後、賀茂に参り給ふと聞きて、「今一度も見む」と思ひて、心にもあらぬ賀茂参りして、
 +
 +  よそにても見るに心はなぐさまで立ちこそまされ賀茂の川波
 +
 +とても、涙のみいとどこぼれまさりて、大方うつし心もなくぞ思えける。
 +
 +蝉の鳴くを聞きて、
 +
 +  恋しさをしのびもあへぬうつせみの現(うつ)し心もなくなりにけり
 +
 +「をのづから嘆きや晴るる」とて、中納言には劣れども、無下ならぬ人に、親しき人心合はせて盗ませてけり。それをまた、いたう嘆きて、
 +
 +  身を捨てて心は無きになりにしをいかでとまれる思ひなるらん
 +
 +  世を代へてこころみれども山の端につきせぬものは恋にぞ有りける
 +
 +ただ中納言をのみ恋ひ嘆きて、「いかに罪深かりけむ」と思ふに、貴くめでたき法師子を持ちて、山に置かれたりけるぞ、「罪少し軽るみにけむかし」とはおぼゆれ。
 +
 +>御堂の中姫君((藤原妍子))、三条院の御時の后、皇太后宮と申したるが女房なり。大和の宣旨とも申しけり。世にいみじき色好みは本院の侍従・御荒の宣旨と申したる。侍従は、はるか昔の平中((平貞文))が世の人。この御形の宣旨は中ごろの人。されば、昔今の人を一手に具して申したるなり。((「御堂の中姫君」以下、底本二字下げ。注記の扱い。))
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text/kohon/kohon008.1399618977.txt.gz · 最終更新: 2014/05/09 16:02 by Satoshi Nakagawa