text:jikkinsho:s_jikkinsho06-35
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text:jikkinsho:s_jikkinsho06-35 [2016/01/26 16:20] – 作成 Satoshi Nakagawa | text:jikkinsho:s_jikkinsho06-35 [2016/01/26 16:21] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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絵仏師良秀といふ僧ありけり。家隣より火出で来ぬ。押し覆ひてければ、大路へ出でにけり。人の描かする仏もおはしけり。また、物もうちかづかぬ妻子なども、さながらありけり。それをも知らず、身ばかり、ただ一人出でたるをことにして、向へのつらに立てりけり。 | 絵仏師良秀といふ僧ありけり。家隣より火出で来ぬ。押し覆ひてければ、大路へ出でにけり。人の描かする仏もおはしけり。また、物もうちかづかぬ妻子なども、さながらありけり。それをも知らず、身ばかり、ただ一人出でたるをことにして、向へのつらに立てりけり。 | ||
- | 火、はやわが家に移りて、煙・炎くゆりけるを見て、おほかた、さりげなげにてながめければ、知音ども訪(とぶら)ひけれども、騒がざりけり。「いかに」と見れば、向へに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづき、うちうなづきして、時々笑ひて、「あはれ、しつる所得かな。年ごろ悪(わろ)く描けるものかな」といふ時、訪ひ来たる者ども、「こはいかに。かくてはあさましきことかな。物の憑き給へるか」と言へば、「なんでう、物の憑くべきぞ。年ごろ不動尊の火炎を悪しく描けるなり。はや、見取りたり。これこそは所得よ。この道を立てて、世にあらむには、仏をだによく描き奉らば、百千の家も出で来たりなんずるものを。わたうこそ、させる能もおはせねば、物を惜しみ給へ」と云て、嘲笑ひて立てりけり。そののちにや、「良秀がよぢり不動」とて、人々めであへりけり。 | + | 火、はやわが家に移りて、煙・炎くゆりけるを見て、おほかた、さりげなげにてながめければ、知音ども訪(とぶら)ひけれども、騒がざりけり。「いかに」と見れば、向へに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづき、うちうなづきして、時々笑ひて、「あはれ、しつる所得かな。年ごろ悪(わろ)く描けるものかな」といふ時、訪ひ来たる者ども、「こはいかに。かくてはあさましきことかな。物の憑き給へるか」と言へば、「なんでう、物の憑くべきぞ。年ごろ不動尊の火炎を悪しく描けるなり。はや、見取りたり。これこそは所得よ。この道を立てて、世にあらむには、仏をだによく描き奉らば、百千の家も出で来たりなんずるものを。わたうこそ、させる能もおはせねば、物を惜しみ給へ」と云て、嘲笑ひて立てりけり。 |
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+ | そののちにや、「良秀がよぢり不動」とて、人々めであへりけり。 | ||
をこがましく((底本「をこましく」。諸本により訂正。))聞こゆれども、右府((藤原実資。[[s_jikkinsho06-34|前話]]参照。))の振舞ひに似たり。 | をこがましく((底本「をこましく」。諸本により訂正。))聞こゆれども、右府((藤原実資。[[s_jikkinsho06-34|前話]]参照。))の振舞ひに似たり。 |
text/jikkinsho/s_jikkinsho06-35.1453792827.txt.gz · 最終更新: 2016/01/26 16:20 by Satoshi Nakagawa